明鏡   

鏡のごとく

温度計

2015-02-14 01:00:55 | 詩小説
いつからだろう。
温度計の赤いすいぎんが離れ離れになっていた。

うかつであった。
横を向いた眼差しが温度計の目盛りを凝視するあの目線でしか、赤い線を見ていなかった。

毛根から跳ね上がる赤毛のような水銀は点々とした切れ毛になっていたのだ。

これでは、温度が正確に測れない。

いままでこんなことはなかった。
堆肥の変化を観察し続けてきたが、はじめての事だった。

温度計を熱湯にとうにゅうせよ。
さすれば、もういちど、つながることができよう。

神のお告げのようにひとはいった。
すいぎんはひとつになる。はずであった。

なべで煮立てて百度になるまえに。
温度計はてからこぼれ、ふたつにわれた。

温度は失われた。
もうはかりしれない。

たいひせよ。
だんぼーるのなかの微生物よ、たいひせよ。

ただつちにねむりて、
あたたかきはるをまたれよ。