明鏡   

鏡のごとく

『夢の答え』

2016-04-09 23:57:12 | 詩小説

兄に会いに行った。

先日、兄が夢に出てきたので、何か意味があるのかもしれないと思いたったのもあるが、この先、何度会えるかわからない、りょうしんともあうために。

父は右半身不随となってから幾年が過ぎ、すこし赤黒く膨れた右手の指先が左方向に曲がったままの方向指示器のようになった腕を肩から重そうにぶら下げて、母とゆっくりゆっくりと二人で歩いていた。

母は歩きながら、昔を振り返り、笑う度、あまりに色々なものをかみ殺し、飲み込んできたので、奥歯がぼろぼろになっているのが見え隠れしていた。

左手で杖を突き、スフィンクスに噛み殺される謎々の答えの行き着く先となった父の、もう一つの杖となって、母は父の右側の脇の下と肘を支えることが身に沁み過ぎて、私の右側に立った時でさえ、落ち着かないのか、いつもの癖なのか、私の脇の下に手をやり、肘を支えた。

どうしたものかと、放置していたが、母は、はたと我に返ったのか、笑いながら、


この前も、親戚のおばちゃんにも同じことをして、やめて。と、振りほどかれたとよ。


と、母は言った。


兄は、相変わらず、体調がいい時と悪い時を繰り返していたが、今日は、意外と体調も、気分もいいようであった。

兎にも角にも、皆それぞれに、どこかに、過不足があったのは確かであった。


私は、鮮烈な夢を見ると起こる寝不足と多少の運動不足が祟って、夢の事態を、夢うつつの中、捉えきれずにいたが、兄の着ていたTシャツを見て、何かしら、ひとしきりの答えをもらった気がしていた。

兄は、なぜだかさっぱりわからないが、その時、私が学生の頃に着ていたお気に入りのTシャツを着ていたのだった。

大地と見まごうほどの土気色の生命のうねりのような、地響きのようなそれでいて素朴な蛇が描かれていて、一本の枝か、木のようであったので、私はそれを痛く気に入り、擦り切れるくらい着ていたのだが、まだ、兄がそれを着ていたことに、慄いていた。

ところどころ、まさに、背中に蛇に噛みつかれたような穴さえ開いていたのだ。