明鏡   

鏡のごとく

『絹とびにる』

2016-08-01 20:00:23 | 詩小説
蚕が絹を体に巻くのは、生きるためか、死ぬためか。

蚕は生きるつもりで絹糸を全身くまなく包むのであろうが、その絹を欲するものたちが、墓場から暴かれてきたマミーについた古い包帯をはがすように、絹糸を巻き上げていくのだ。

一本の絹糸でできた死装束。


私はそう思いながら、茅を束ねた後のくたびれきった断末魔のような、びにるの白いひもを拾って行った。


途切れ途切れに、引き伸ばされた言葉の語尾のような、びにるひもたち。

ビニール。

ビーニーーールー。

絹糸が死装束であるならば、びにるひもは、語尾である。

それでも、びにるを集め、吊るしていくと、蓑のようになっていく。

語尾から蓑へ。

おそらく、暑い夏をさらに熱くするであろう、びにるの蓑が出来上がっていく。

誰が着るわけでもない。

中身のない蓑を作り続ける私たち。


その横で、蚕の亡骸は、佃煮のようになり、その身を切り刻まれて、蓮池にたゆたう、鯉の餌になっていた。