みゆちゃんのひも遊び

 わざわざ買ってあげた猫用玩具はすぐに飽きてしまうみゆちゃんだが、長く愛用しているものがひとつある。長さ七十㎝ほど、茶色とベージュのツートーンカラーの、髪の毛を結ぶゴム紐だ。この紐を人間に振らせて追いかけるのが、みゆちゃんはたまらなく楽しいらしい。暇なときはいつでも、といっても、猫の仕事と言えば寝る事くらいなものであるから、起きているときにはしょっちゅう、紐を動かせと催促する。
 みゆちゃんが、にゃああ、にゃああと、いつもの不満たらしい声で鳴くので、「みゆちゃん、なあに」と返事をすると、みゆちゃんはこちらの顔を振り返り見ながら、こっちこっち、と歩き出す。そして、前回遊んだまま床の上に落ちている紐のところまで来ると、その前にちょこんと座って、コレだ、と訴えるのである。
 私が、紐を床に這わせるようにして振り回すと、みゆちゃんは遮二無二それを追いかける。紐の端っこを前足で抑えて捕らえるのだが、抑えたままだと紐が動かないことを知っているので、すぐその足を離す。私が紐を遠くへ投げると、追いかけて行って口にくわえ、とことこと私の前に運んできて床に置く。しばらく走り回ると、さすがに疲れて、はあはあと腹で息をしている。
 紐遊びは、時々鬼ごっこと組み合わせられる。台所で皿などを洗っていると、敷居のところに現れたみゆちゃんは背を弓なりにして私を威嚇し、次の瞬間、ものすごい勢いで、時々床の上で足を空回りさせながら、居間の向こうの隅まですっ跳んでいって隠れる。仕方がないので、私は皿洗いを中断し、のそのそと居間に入っていって、落ちていた紐を引きずると、みゆちゃんがとび出してくる。皿洗いを再開すると、またみゆちゃんがやってきて、「鬼さんこちら」と言いつつ、ものすごい勢いで逃げていく。
 最近になってみゆちゃんは、ひたすら紐を追いかけるという、今までのいささか子供っぽいスタイルを、より洗練されたものに変えた。
 私が紐を動かすと、みゆちゃんは爪とぎ遊具の後ろや段ボール箱の陰に身を隠す。そして、紐の動きを観察し、その法則を見極めるや否や、とびかかる。
 いったん紐を捕らえても、すぐに離し、しらん顔をして隠れ場所にもどる。そこでふたたび、猫視眈々と紐を狙う。
初めのうちは紐の動きがなかなか読めずに、狙いが定まるまでに時間がかかった。しかし、回数を重ねるにつれて、すぐに跳びかかれるようになった。
 新しい遊びの方が、むやみに追い回すよりも大人らしいが、そのぶん運動量が少ないので、みゆちゃんはなかなか疲れない。したがって私は、以前にも増して長時間紐を振り続けなくてはならなくなった。
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