雨の庭に

 雨である。
 雨が降るとナメクジがよく出る。普段どこに隠れているのやら、大きいもの小さいものが庭のあちこちに現れる。以前みゆちゃんが雨上がりに庭遊びをして、背中に一匹乗せて帰ってきたこともあった。
 殻があるかないかで、カタツムリとナメクジの処遇は雲泥の差である。殻があれば、愛嬌があると童謡にまでなっているが、殻がなければ害虫として嫌われる。ナメクジという名前自体悪い。たとえば「イエナシカタツムリ」とか言うふうに、もっとカタツムリの仲間であることをアピールするような名前だったら、もう少し印象が違うと思う。
 ナメクジは広東住血線虫という寄生虫の中間宿主になる。この寄生虫は、もともと熱帯・亜熱帯地域に生息するものだが、宿主のアフリカマイマイと一緒に輸入されて、今では全国の港湾にみられるという。日本での人への感染例は、この三十年ほどで五十数件であり、ナメクジやカタツムリに対して過度に神経質になる必要はないが、一歳の息子はまだ何でも口に入れてしまうので、雨の日はみゆちゃんの庭遊びを禁じている。
 そんなこんなで私はナメクジが嫌いだが、この夏、滋賀県内の山へ滝を見に行ったとき、もっと気持ちの悪いナメクジ様のものに接触した。足場の悪い川沿いを歩いていて岩に手をついたとき、小指に何か岩とは異質な感触がした。見ると、長さ三センチほどのナメクジみたいな生き物が小指の先にいた。人里に住むナメクジの唯一のチャームポイントであるとび出た目もなく、全体にぬるっとして半透明である。山のナメクジはこんなに気持ち悪いのか。急いで接触した小指を谷川の水で洗い流した。
 結局これはナメクジの仲間ではなかったようだが、これを見たおかげで、両目のにゅっと突き出た家のナメクジが、まだまだかわいい部類なのだと思えるようになった次第である。
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