冬猫支度

 まだまだ日中の気温は高いけれど、朝晩の空気はずっと冷たくなった。みゆちゃんも猫なので、そろそろ暖かい場所を追い求めて過ごすようになる。ソファに座っていると、人と肘掛の間の狭い場所に、無理矢理からだを押し込んでくる。眠っている一歳の息子の足元に、もたれかかって丸くなる。
 家の台所は東向きで、午前も遅くなると、秋を迎えて弱くなった太陽の作る陽だまりは、部屋のほんの一部になる。それは、立ててある二十四缶入りビール箱の上だ。みゆちゃんはその箱の上によいしょと跳び乗り、前足を内側に折ってつくる香箱の姿勢でうずくまって、うつらうつら居眠りしていた。
 が、ビール箱が未開封だったのは昨日までである。今朝もビール箱に上ろうと、箱に手をかけたみゆちゃんは、あれ、という顔をして立ち止まっている。箱が開けられて中身が数本抜き取られ、上蓋が内側に落ち込んでいるのだ。それでも無理に上って、箱の上で香箱をつくろうとした。
 滑り台のようになった蓋の上なので、みゆちゃんのからだは、ずるずる箱の中に沈む。さすがに寝心地が悪く、足の位置を何度もかえて姿勢を直すが、すぐにまたずり落ちる。でも目は開けない。ぽかぽか陽気が気持ちいいのか、よっぽど眠いのか、しまいには香箱をつくれず不安定な箱の上に座ってしまったが、それでも顔は寝たままである。
 しばらく頑張っていたが、さらに時間が過ぎて、日のあたる場所はみゆちゃんのおしりだけになってしまいった。みゆちゃんは太陽をあきらめて、内側に断熱材のついた保温バッグの中にもぐって行った。
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