パッちゃんの子猫(後篇)

 子猫の里親が見つからないまま、時間だけが過ぎていった。
 そんなある日、私は友達から合同コンパを企画して欲しいと頼まれた。そこで大学の研究室の男子学生を数人誘って、コンパをすることになった。
 コンパの席で、動物の話題になった。学生のK君はとても動物が好きで、子供の頃ハムスターと一緒に寝たくて無理矢理布団に連れていったけれど逃げられたという話をした。
 ほとんどの学生はマンション暮らしであるのでおそらく猫は飼えないだろうと、学生は里親探しの対象からはずしていたのだが、もしかしてと思い、聞いてみた。
「僕、猫と暮らすのが夢なんですよ」
夢のような答えが返ってきた。すかさず、持って来ていた里親探しの写真つきビラを渡した。
「かわいいなぁ」ビラの写真を、じっと見つめている。
そこで、猫がどんなに可愛いか、猫と暮らすとどんなに楽しいかを力説した。K君の心が傾いてくる。住宅事情も大丈夫だという。私はさらに猫を飼うことを勧めた。
やがてK君がぽつりと言った。猫は無責任に飼えるものではないので、一晩、考えさせて欲しいと。確かにそのとおりだった。生き物の命を預かることについてきちんと考えてくれるK君が子猫をもらってくれたら、どんなにいいだろうと私は思った。
次の日、K君からの返事の電話を待った。期待と、どうせまた駄目だろうという諦めがない交ぜになっている。携帯が鳴った。K君からだ。どきどきしながら出る。
「よく考えたんですが…」という切り出し。ああ、駄目だ、やっぱり無理です、と続くにちがいない。
「猫、もらうことにしました」
 耳を疑った。やっと、やっと里親が見つかった。肩の荷が下りて、気持ちがすうっと軽くなっていった。
私は何度も礼を言って、子猫を引き渡す段取りを決めた。
 こうしてK君の家にもらわれていった子猫だが、やはり最初はベッドの下に籠城した。子猫が出てこないのですが、というK君の電話。私は、うちに連れてきたときもそうだった、三日もすれば出てくるはずだと答えた。
 ところが、三日経ち、四日経っても子猫は頑張ったままである。K君に申し訳なく思いながら、そのうち出てくるから気長に構えて欲しいと頼んだ。
 結局ベッドの下から子猫が出てきたのは、一週間が経ってからであった。それからはすっかりK君になついた。膝の上に乗って甘える。夜は一緒に眠る。子猫は太郎という名前をもらった。
 小さかった太郎も、大きくなった。大型タイプの猫である。大きいが甘えん坊で、K君と仲良く暮らしている。彼にもらってもらい、本当によかった。
 ちなみに、合同コンパのあと付き合いが始まったというメンバーは誰もいなかった。ただK君が、恋人ではなく猫を得たのである。
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