猫のポチ

 実家にポチという猫がいる。なぜ猫なのにポチかというと、彼が非常に犬っぽいからだ。
 よく犬と猫の性格の違いを表すのに、犬は素直で主人に服従する、猫はわがままで服従しない、などと言われるが、ポチは猫よりも犬の性格がより顕著である。
 犬の目を見ると犬はすぐに目をそらすが、猫の目を見ると猫は勝気な目でじっと見返してくる。かなり気を入れて見つめないと、こちらが根負けしてそらしてしまうくらいだ。しかし、ポチはすぐに目を伏せる。これは犬の反応である。
 たいていの猫は、名前を呼んでもすぐには来ない。なでて欲しいとか、猫自身と利害が一致している場合には、仕方がないというような顔でのそのそ歩いて来るが、そうでない場合はまず来ない。返事をするのはいい方で、耳だけ動かしたり、尻尾の先を「はいはい」とうるさがるように一振りさせるだけである。猫は本当に言うことを聞かない。ところがポチはすぐに来る。尻尾こそ振らないものの、犬のように喜んで走って来る。
 また、短い距離ではあるが、ポチは父と散歩に行く。犬と違って、散歩に行く猫というのはあまりいない。父が散歩に出かけると道の横をとことことついて来る。その様子を見た隣家のおじさんも、散歩する猫とはめずらしいですなあと、感心していたそうである。家の前の道の曲がり角まで来ると、ポチはそこで止まり、その先へは行かない。行かないが、そこから先へ行ってどこかを回ってきた父を、帰ってくるまで待っている。なかなかの忠猫ぶりである。
一見、ポチはこわそうな猫だ。黒いマスクを被ったような幅広の顔に、むすっとした目がついている。そして大きい。体重が七キロ近くある。それでいて、とても甘えん坊でこわがりである。
 何年か前の冬、ポチはどこからともなく家にやってきた。ある晩、見慣れない猫が外飼い猫用の餌を食べていた。黒々とした大きな体に、ちょっと目つきの悪そうなこわい顔。裏口を開けると、猫はさっと逃げてしまった。それがポチだった。
それから時々、その大猫が訪ねてくるようになった。しかし戸を開けるとすぐに逃げてしまう。
 そんなある日、私の姿を見てひとまずは逃げたポチだったが、十メートルほど先で立ち止まり、意味ありげな目でこっちをじっと見た。怖がらせないように、私はそろりそろりと近づいていった。間合いが数メートルになると、猫はまたとことこと逃げる。そして立ち止まり、またこっちを見る。私が近づく。猫が逃げ、振り返る。それを繰り返し、だんだんと距離が狭まっていった。最後に私が近づくと、ポチはもう逃げなかった。逃げるどころか、いきなりごろんと横になり、「なでてくれ」のポーズをとったのである。私はその大きな黒白の体をなでてやり、私たちは友達になった。
 それ以来、ポチは家に居つくようになった。一日のほとんどを、家の敷地で過ごしている。最初のうちは外猫チャプリと仲が悪く、ポチの出現でチャプリはかなり迷惑していたが、今ではすっかり打ち解けて、父の作った猫ハウスで二匹一緒に寝る仲である。
 ポチの話を友人にすると、友人は「それって、犬猫」だと言った。犬っぽい猫というのは時々いるもので、そういう猫を「犬猫」と呼ぶらしい。
 犬猫ポチは忠猫であるが、まだ「お手」はしない。


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