脱走猫みゆちゃん

 深窓の令猫たる我が家のみゆちゃんは、外へは出さず室内飼いにしている。庭では遊ばせているが、庭の周りは高い塀で囲まれているので、外へは出られないはずだと思っていた。
 ところが、令猫のはずのみゆちゃんが、脱走した。植えてある椿の木に登って塀を越えてしまったのである。なんとか連れ戻したが、対策が必要だ。
 まず、見映えが悪いが、木の幹のみゆちゃんが跳びつく少し上あたりに空になったペットボトルを縦に並べて、猫返しを作った。効果を確かめるために、みゆちゃんを庭に出す。脱走の味を覚えたみゆちゃんは、まっすぐに木のところへいって、幹に跳びつく。が、猫返しに行く手を阻まれ、降りざるを得なかった。成功である。
 さらに、その晩、脱走疲れですやすや眠るみゆちゃんの手を見ると、爪が鋭く伸びている。これも切っておかなければ。ぱちんぱちんと、ちょっと気の毒なくらい短く切ってしまった。
 次の日の朝、みゆちゃんはまた庭へ出て椿の木に登ろうとした。ぴょんと木に跳びつくが、あれあれ、ずずずとすべり落ち、どすんと尻餅をついてしまった。
 みゆちゃんは、まさか爪を切られたせいだとは思わず、おかしいなという顔をして昨日は登れた木を見上げている。小首をかしげ、庭を一周してから気持ちも新たに、もう一度挑戦した。だが結果は同じことである。またずり落ちた。
 みゆちゃんはショックを受けているように見える。自分は木登りもできない駄猫になってしまったのだろうか。そのあと、低くて枝ぶりの登りやすい沈丁花の木に登ろうと前足をかけたが、あきらめてしまった。猫としての自信を喪失してしまったようである。
 庭遊びもやめて、すごすごと家の中に戻ってきた。ちょっと可哀想なことをしたなあ。またすぐ伸びるよと、慰めの言葉をかけたが、みゆちゃんは肩を落として自分のベッドへ歩いていってしまった。


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