老人がアメリカに暮らす妹、文代に、
1年前に送った、長い長い手紙。
この重い意味のある小道具をどうしたものか。
読み合わせの頃から、
ずっと頭を悩ませていたことでした。
普通、小道具は、
使う役者が用意して、管理もします。
特に、手紙などは、持ち道具とも呼ばれ、
より、使う役者との結びつきが深いもの。
ということは、老人の妹・文代役の、
大塚みどりさんと私が、
手紙を用意することになる。
でも、そうじゃないな、
と思ったんです。
老人が、これまでの人生を振り返り、
その先にある痴呆という病におびえながら、
すべての思いを書き綴った手紙は、
やっぱりご本人に、
つまり、老人役の仙崎情さんに、
書いてもらうべきじゃないか。
このとてつもなくシンドい作業を、
言わば「人に押し付ける」ことに、
ためらいもあったのですが、
何よりの役作りにもなることは確かです。
よく、養成所などで、
自分の役の履歴書を書かせたりしますが、
それと一緒ですね。
頭で考えているだけだと、
あいまいなままで済むことが、
文章にするとそうはいかなくなる。
仙崎さんと、
養成所の子を一緒にしては失礼ですけど、
でも、誰にでも必要なことなので、
主宰にも相談して、
書いてもらうことになりました。
それから、出来上がりを待つこと、
・・・2週間。
それでも、手紙は現れません。
稽古場では、相変わらず、
白い便箋を使って、稽古が続きました。
そして、また1週間。
もう来週は小屋入りなのに、
今になって「書けない」なんて、
そんなことはないよね?
と、心配もピークにさしかかったとき、
封筒に入った、驚くほどの長い手紙が、
私たちの前に現れました。
パソコンで打ち込まれた、
長い長い文章を読むうちに、
思わず本気で涙が流れました。
兄さん、ありがとう。
まさか、こんなに心のこもった手紙を、
読ませてもらえるとは思わなかったわよ。
とりあえず、コピーして、息子・政伸役の2人にも渡し、
しっかり読んでもらいました。
あ~~~、待った甲斐があったぁ
といっても、芝居で使う手紙は、
やはり手書きのイメージということで、
今度は私が書き写すことに。
すごい量で、少し飛ばしながら書いても、
便箋にぎっしり7枚。
夜中に2時間以上かけて書き写し、
何部もコピーして、完成。
小道具は、使っているうちに、
濡れたり、破れたり、何があるかわからないので、
沢山作れるものは、
とにかく作っておくんですね。
それで・・・、
客席からは・・・、どうかなぁ。
「字が書いてある」くらいはわかったかなぁ。
この矢印の手紙なんですけどね。
でも、いいんです。
これで、兄さんも、私たちも、政伸たちも、
絶対に何かが変わったはずなので。
そう。
ウチのチームの政伸役、ムックくんは、
千秋楽のあと、
記念に手紙を持って帰ったくらいですから
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