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まど みちお詩集 植物のうた 銀河社発行 より
梢
まど みちお
かぞえきれないほどの
はっぱに なって
おしあいで 空をさわっている
さっきまで
じめんの下の くらやみにねて
空へのゆめばかり みていた水が
根から幹へ
幹から枝へ
枝から梢へと のぼりつめて いま
むかし 雲だったころに
まっさおに そまって
走ったり ねころんだりした
空を
虹だったころに
あふれる やさしさで
リボンをむすんだ
空を
雨だったころに
胸 とどろかせて
スカイダイビングした
空を
さわっても さわっても
さわりきれないもののように
担任だったころに 「空からの落とし物」という劇に 子どもたちと 取り組んだことがありました。
空の国の宝物を、あわてんぼうの家来がうっかり下の世界に落としてしまいます。
それは、空を塗り替える魔法の大筆でした。
空の国の王様は、その筆を取り戻す役目を、下の世界に降りることのできる雨の小人たちに頼みます。
筆が落ちたのは、虫たちが楽しく平和に暮らす野原でした。
生きているのか・死んでいるのかわからない その不思議なものを見つけ、大騒ぎとなります。
そこに小鳥がやってきて、それは空から落ちてきたものだと話します。
そこに雨の小人たちがやってきて、落とし物が空の国の大切な宝物で、それを探しに空からやってきたことを話します。
その話を聞いて、虫たちは それだったらと、雨たちをその宝物を見つけたところに案内します。
ところが、その宝物をおいしいごちそうだと思った大毛虫が、力づくで横取りしてしまいます。
雨たちががっかり気を落とします。
その様子を見た虫たちは、一緒に宝物を取り戻そうと雨たちを元気づけます。
カブトムシやクワガタといった力の強い虫やたくさんの虫たちの手助けもあって、やっとのことで大毛虫から宝物を取り返します。
雨たちは虫たちに心から感謝し、そのお礼に この宝物の筆で 見たこともないようなきれいな夕焼けを描くことを約束します。
雨たちは、みんなで筆を背負い、虹の橋を渡りながら空の国に帰っていきます。
やがて、野原で空を見上げていた虫たちは、これまでで一番きれいな燃えるような夕焼けを見て、大喜びします。
空への憧れは、今でも続いています。
まどさんの詩にあるように、
「さわっても さわっても さわりきれないもののように」
その遠さがあるから 憧れることをやめることはできないのかもしれません。