あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

谷川俊太郎詩集から

2020-04-22 17:17:02 | 日記



      川
              谷川俊太郎

   母さん
   川はどうして笑っているの
  太陽が川をくすぐるからよ

   母さん
   川はどうして歌っているの
  雲雀が川の声をほめたから

   母さん
   川はどうして冷たいの
  いつか雪に愛された思い出に

   母さん
   川はいくつになったの
  いつまでも若い春とおないどし

   母さん
   川はどうして休まないの
  それはね海の母さんが
  川の帰りを待っているのよ

川のそばの草むらに 仲良く腰を下ろしている 母と子。
流れを見ながら よりそうように 語り合っています。  
あたたかい春の光が その二人を 包みこむように輝いています。

子どもにとって 川は、自分と同じように 笑い・歌う 存在なのでしょうか。
くすぐられて笑ったり ほめられて歌ったりする ような…。

子どもの問いかけに答える 母の言葉に、川と我が子を重ねる 優しくあたたかい母の思いを感じます。
くすぐっているのが 太陽で、ほめているのが 雲雀であることから、川の情景まで見えてきます。
太陽の光を受けてきらきらと輝く水面、その上空で 輪を描くように高く舞う雲雀の姿やさえずり…。

三連の母の答えを 子どもはどう受け止めたのでしょうか。
川の水の冷たさは、川が生まれた時から 忘れないで大切に持っているもの。
それが、「雪に愛された思い出」という母の言葉で、雪が溶けて川の始まりとなる源流の景色が見えてきます。
雪に包まれた山々。
春の訪れとともにその雪が溶け始め、一つ一つのしずくが集まり小さな流れとなって山を下り、それが川の始まりなのでしょうか。
川の冷たさは、川になる前の 雪との思い出。
「雪に愛された」という言葉を通して、子どもは、こう感じ取ったのかもしれません。
愛されたことを忘れないでいるために冷たいのだ。自分が母から愛されているように。

四連で 子どもは、思い出を大切にしながら流れている川を見て、「川はいくつになったの」と尋ねます。
「いつまでも若い春とおないどし」という母の答えに、子どもは 自分と同じぐらいの歳と 感じたのかもしれません。
雪の思い出とともに 生まれた川が 山を下り 次から次へと 決して途切れることなく 流れ続けていることに、若い春を感じたのかもしれません。     
同時に、「母さんもいつまでも若い春のままで」と 思ったのかもしれません。

五連で 子どもは、流れ続ける川は いつ休むの? と 問います。
「それはね海の母さんが 川の帰りを待っているのよ」  
母の答えに、子どもは 自分の帰る場所とおんなじだと思って 安心したことでしょう。

川の帰りを海の母さんが待っているのですから、川は海で生まれ、やがて水蒸気となって雲になり、雪となって山に下り、雪解けの季節に合わせて川となって 
海の母さんのもとに帰るのでしょうか。
そうやって 人間が誕生する前から、繰り返し 川は 若い春と同じように 新たに生まれ 新たな流れとなって 海の母さんのもとに帰ってきたのかもしれません。
ある意味で、川は人生そのものでもあるのかもしれません。
一つの川となって流れていく中で、さまざまなものと出会い、別れ、時には笑い、歌いながら、愛された思い出と愛した思い出を胸に、海の母さんのもとに帰る旅。

自分が子どもだったころは、母とどんな話をしただろうか…
そんななつかしい思い出の中に 自分を導いてくれるような詩です。
コメント
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