金融のデジタライゼーションの第1のテーマは、「汎用商品はネット取引が主流となり、販売手数料はゼロに収斂する」ということ。これは前回まででお話したとおりです。この分野で稼ぐためには、付加価値の高い尖った商品サービスを用意するか、汎用商品(ティッシュペーパーや紙マスクと同様)の独占提供者になること。下手に2~3社ライバルがいると、価格ダンピングで儲からなくなります。
ここからは「資金決済」の分野の話です。自分が所属する資産運用会社・信託銀行にとって、資金決済業務は本丸ではないので、成り行きを見守り、最終的なインフラを活用するだけです。失うもの(既得権益)がないので、かなり冷静に動静を伺うことができています。
ところで、資金決済と言っても、日々の生活で使う数百円から数万円規模のものと、数百万円の車の購入、数千万円のマンションの決済、あるいは業務上の決済である億円単位のものでは、求められる「サービス内容」は異なります。前者は言わば、万が一、ハッカーにかすめ取られても諦めがつく世界であり、また保険会社が数十万円までならカバーしてくれる世界です。したがって、セキュリティ水準もリーズナブルなレベルで十分ということになります。
一方で、多額の資金決済や外国送金となると、普通程度のセキュリティレベルでは保険でカバーしようとしても限度額がありますので、絶対安全な仕組みの中でないと、怖くて決済依頼などできません。日本には日銀を中心とした全銀システムによる鉄壁の資金決済の仕組みが出来上がっています。海外との間でもSWIFTという仕組みが完成されています。したがって、法人の通常業務や個人の多額な資金決済については、この仕組みを使用する方が得策で、数百円とか数千円の手数料をケチってわざわざリスクを取る人がいるとも思えません。このマーケットに「安かろう、悪かろう」は通じませんので‥。
むしろ問題なのは、日々の消費や、食事の際の割り勘などで活用する、せいぜい数十万円までの決済システム。ここは消費データそのものの収集に意味があるため、セキュリティよりもデータの使い勝手の方が優先される世界。ここの主導権はすでにアマゾン、楽天、アリババなどに握られている訳ですが、日本のメガバンクを中心に、仮想通貨(これからは暗号資産と呼ばれるようです)を含めて新たな決済の仕組みを作ろうと多額の投資をしています。彼らの狙いはどこにあるのでしょうか?