五輪が始まると案の定、
「誤審だ!」「素人審判団を追放せよ」「誤審で勝った外国人選手は恥を知れ」
などと世論が荒れ狂い、それがネットを通じて世界中に飛び回ります。この事態は国家間の国民同士の罵り合いを生むだけでなく、当事者である選手・審判員とその家族を傷つけ、彼らの身に危険さえも生じさせる結果になります。
もともと「民意」とか「世論」というのは、熱しやすく冷めやすいシロモノ。歴史を紐解けば、戦争のトリガーは大抵が「熱くなり過ぎた世論」。そして、それを煽るのが性質の悪いマスコミであります。ちなみに、教科書では「戦争を生んだのは、当時の権力者=政治指導者」という風に書いてありますが、すべて敗戦国の政治指導者(既に死亡している)の責任にしてしまえば、丸く収まるからそう教えることにしているだけで、いつの時代も、開戦の最終的なトリガーは「熱くなり過ぎた世論」と「それを煽ったマスコミ」と考えて差し支えないと思います。
それと同じことが、パリ五輪でも発生しています。
例えば、「柔道の××選手の失格はおかしい!」と日本の視聴者数人がSNSで騒ぎ始めると、それを擁護するようなネットニュースがすぐに流れます。ネットニュースは、そういう記事を書いておけば、同じ心情にある日本人が数多くアクセスしてくれることを狙って記事を流すわけですが、その記事を読んで初めて「日本人選手が誤審被害にあったらしい」と誤認してしまう読者が多数発生します。この読者は、実際には柔道中継を観ていないにも関わらず、ネットニュースを鵜吞みにして「審判団がけしからん!」と、さらにSNSで激しい口調の見解を拡散したりします。
このようなプロセスを経て、日本国中であっという間に、「五輪の素人審判は追放せよ」「誤審により勝てた外国人選手は恥を知れ」と盛り上がることになります。たった1時間か2時間で「鬼畜米英!」「神国ニッポン‼」みたいなシンプルかつ短絡的な言葉によって、国内世論が辛辣で極端な見解に染まっていくことに。
本来のマスコミの役割は、「正確な事実を伝えること」と「熱し過ぎた世論を冷まして冷静な判断を促すこと」。
にも拘わらず、アクセス数を増やしたいが故に、「過激な意見」「過激な反応」を寄せ集めて、さらに火を点けるような報道行為に出るケースが散見されています。
また地上波TVのコメンテーターの中にも、このネットニュース同様に「熱くなり過ぎた世論をさらに煽るような言動」を繰り返す人たちが数多く存在しています。この人たちも、とりあえず今現在の国民世論に阿って、少しでも視聴率を上げようと努めているに過ぎませんが、これがどれだけ世の中に悪影響を及ぼすのかを全く考えていません。
ネットニュースの当事者および地上波TVのコメンテーター等に申し上げますが、あなた方もマスコミの端くれでしょう。マスコミとしての矜持はないのでしょうか。
アクセス数や視聴率をアップさせること以上に、大切な役割があなた方にもあることを忘れないで頂きたい。