覆面の曲者というのは大体夕間暮れとか丑三つ時に悪さをすることになっているのだが、曲者患者はだいたい午前終診間際にやってくる。
「まあ、曲者だなんて失礼ね」。と言われるように殆どが女性である。なぜ終わり頃にやって来るかと言えば、最後に診察券を出そうとするからだと睨んでいる。最後だとあと誰も待っていないから、存分に言いたいことが言えると思っておられるようだ。
そのひとりKさんは五十六歳、二ヶ月に一回くらいやって来られる。専業主婦でお仕事はされていない、人の良いご主人とお嬢さんが二人。
「今日はどうされましたか」。
「下の娘が結婚するので忙しくて、なんだかよく眠れないのよ」。から始まる。だんだん話を聞いてゆくと「お食事が美味しくないのよね。でもちゃんと量は食べられるの、不思議でしょ」。お腹の具合が悪いのかと思っていると「一昨日からのどが痛くて、ちょっと咳が出るの」。ああ、風邪を引いたのかと「熱は?咳は?鼻水は?」。と聞いて、漸く診察をさせてもらいこれで終わりかと思うと、、今度は肩が凝るので湿布が欲しい、あっそうだ、うがい薬も欲しい。湿布はモーラステープかいいわ、うがい薬はイソジンにして頂戴。とつぎつぎと注文される。
その頃には付いていた看護師はどこかに行ってしまっている。「おーい、ワシを一人にしないでくれ。話の腰を折るのも看護師の仕事だろ」と内心呟く羽目になる。
勿論、受付嬢達はKさんが好きではない。昼ご飯が遅れるし、何となく受付を尊重していない節があるからだ。
何、私はって、別に嫌ってはおりませんが、歓迎はしていないのです。