百聞は一見に如かずと言う。あんまり知らない国に行った場合は十聞は一見に如かずとでも言えばよいのか、フィンランドはムーミンと森と湖の国くらいしか知らなかったのだが、行って驚いた。夏とは言え、まさか北緯六十度が暑いとは予想外で、まあ日本の五月くらいのものだろうと思って長袖シャツに薄手の背広で行ったのだが日中は暑くて往生した。
フィンランドは豊かな国のようだ。高速道路は無料で完備されており、嬉しいことに車が少ない。緑の森の中をまっしぐらに走ることが出来る。
高速道路を外れても80kmのスピードで走ることの出来る舗装道路が整備されており、レンタカーで走り回るのにもってこいの国だ。ただ、困ったことに道路脇の店が少ない。小腹が空いた時に、すぐ軽食堂やドライブインが見付かるわけではない。それも道理でこの交通量では店を開いても閑古鳥だろう。
たった四日間でフィンランド人が気に入ったなどというのは言い過ぎだろうが、親切で控えめで私には住みやすそうに感じた。明らかに地元の人が殆どというホテルにも泊まったのだが、朝食の時、微かに食器がふれあう音がするだけで、話し声が殆どしない。時々小声で言葉を交わすだけで黙々と食べている。
他人に無関心というわけではなくちゃんと見ており、G氏がコーヒーの出し方が分からずまごついていると、さっと席を立ってきて手振りで教えてくれたそうだ。「ちゃんと見ているんだ。親切だなあ」と感心していた。
こうした親切は何度も経験した。日本人など滅多に行かないだろう田舎の公園のフリーマーケットで用を足したくなり、公衆トイレの開かないドアを押したり引いたりしていたら、さっとおばさんが寄ってきて、隣の店で小銭を払うと開けてくれると教えてくれた。彼女はまるで出過ぎたことをしたとでもいうように、礼をいう間も与えずさっと身を翻して行ってしまった。