日本人の平均寿命は女が世界一、男が三位と、これ以上望めないほど、長くなっている。本当に大切なのは健康寿命や幸せ度なのだろうが、それはどうなのだろうか。どちらも寿命ほどには高順位ではなさそうだ。
周りを見回して反応する日本人は、どうも運の善い人恵まれた人と比べる傾向がある。時々がっかりするのは、手を変え品を変え何とか長らえさせているお年寄りに、珍しく息子が付いてきて、不満を言われるような場合だ。息子にはきめ細かく世話をしていないのに、注文が多いのが居る。
Iさんは93歳のお爺さん、杖は使うが自力で歩行できる。去年の今頃はBNPが880まで上げり、浮腫んで息切れがして歩けなくなっていた。薬石効あり、BNPも200まで下がり、浮腫みも減ってここまで頑張って来れたのに、息子が「この前テレビで95歳の爺さんが畑に出ているのをやっていた。うちの爺さんももうちっと何とかならんかね」と言う。
まじまじと同年配の息子の顔を見てしまう。「去年から心臓の調子が悪いし、もう93才だから」と言うと、「いや、95になるだよ」と言う。親父の年もちゃんと分かっていないようでは、家でちゃんと面倒を見ていないのではと想像してしまう。耳の遠い爺さんは我々の会話が聞こえたかどうかよく分からないが何となく私の味方をする素振りだ。検査の数字を見せて、非常に上手くやれていると話すと、急に態度一変ありがとうございますと最敬礼で帰って行った。なんだかよく分からない。
どうも人間は自分や自分の家族には特別の幸運を望むように出来ている?。勿論、中には従容と運命を受け入れているように見える患者さんも居られる。確かに、重病や苦痛は幸運を望まなければ耐えがたいだろう。しかしまあそれは神様の領域、申し訳ないが医者に白い眼を向けないでと思うこともある。