春分まであと十日を切り、夜が明けるのも早くなった。朝刊を取りに出るともう明るい。
グーグルのAIソフトAlphaGoが最強棋士の韓国のイセドルに二連勝した。ついこの間、将棋のプロがコンピュータに負けたばかりなのに僅か二年も経たないうちに囲碁までと驚きちょっとがっかりしている。チェスのチャンピオンだったカスパロフがディープブルーに負けた日から、いつかこうなる日が来るとは思っていたが、自分が生きている間ではないだろうと高を括っていた。どうも人間の脳味噌が唯一無二の特別な存在ではないことが示されたような感じがして嬉しくない。殆ど無限の計算しきれない全ての手を読もうとするのではなく、省略して有効な手を読む人間の智慧を模倣することによって、人間を打ち負かすほど強くなってしまった。
出藍の誉れと言えば、誇らしい気持ちもあるんだろうが、AlphaGoの生みの親もそう感じているのだろうか。コマーシャルベースの囲碁将棋ソフトにさえ勝てない自分ががっかりしたなどと言うのはおこがましく滑稽かも知れない。しかし、人間というのは最優秀の人間が自分を含めた人間を代表していると感じるものだ。
今のところ人が生み出したAIソフトAlphaGoを出藍の誉れと感じるのは難しいけれども、脅威とまでは感じていない。果たして人間を模倣して人間を超えるAIが俳句や歌を作り小説を書き、恋をしメメントモリに気付き、チューリングを欺くまでになるものだろうか。そうなれば、妙な言い方だが脅威というより興醒めに感ずるだろう。