
認知症になると患者さんはしばしば幻想と言われる話をするようになる。自宅から医院まで家族の付き添いなしにはやって来れない患者さんが毎週田舎へ帰っているんですよと百キロ離れた生まれ育った町へ行ってきたような話をされる。「ああそうですか」と相槌を打つのだが家族は違う違うと合図される。勿論、私も事実ではないことは百も承知しているのだが、患者さんにはそれが幻想ではなく事実なのだ。
有り得ないことと確認できるので幻想と却下して相手にしないご家族が多いのだが、有り得ないと簡単には確認できないので世の中には却下されず流布している陰謀論や中傷やあなただけという儲け話が数多い。これらも幻想の一種で願望怒り欲望で目が眩み事実のように思えてしまうのだ。人間はAIと異なり瞬間の事実だけを認識することが出来ず、常に経緯脈絡連想と軽重様々な思いが付きまとい事実が脚色されてまう。