僅か数十秒だが金環日食を見ることができた。医院に着くと木漏れ日が三日月形をしていた。これは六十年近い昔小学校で見た懐かしい影で、担任の先生に影が欠けていると興奮して報告したのを憶えている。「よく気がついた」。と褒めてもらったような記憶がある。
あの頃は蝋燭で煤を付けたガラスで見たものだ。今回は感光したレントゲンフィルムを看護婦達と分け合い用意していたので、それを使い駅のプラットフォームから丸い金環を観測した。本当に指輪のように丸く、地球が宇宙に浮かぶちっぽけな惑星なのを実感した。
暫く前から辺りがなんとなく薄暗く、これで一陣の風でも吹けば、不穏な雰囲気になっただろう。残念なことに電車を待つ大人は知らんぷりの人が多く、私を含めて数名が観測していただけだ。千載一遇なのに勿体ない。流石に当院の看護師は、朝会うなり「先生日食見ました」。と声を掛けてくれた。似た者同士が集うものなのだろうか?