以下の文章は1月6日付琉球新報に掲載された「新春エッセー」です。1月6日の本ブログで触れたように、一部訂正してあります。
二〇〇八年の夏に所用で北海道の釧路市を訪ねる機会があった。街を歩いていて中国からの観光客が目についた。釧路湿原を走っているトロッコ列車に乗ると、中国語を学んでいる地元の大学生がボランティアで通訳をやっていて、中国からの観光客誘致に市として努力している様子がうかがえた。
中国映画のロケ地に北海道が選ばれ、それが観光にも好影響を与えているようだ。ひるがって沖縄はどうか。沖縄における中国からの観光客誘致はまだこれからだろう。十三億以上の人口を持つ巨大な国が、経済発展とともに海外への観光客を増加させている。北海道から沖縄まで、中国人観光客誘致で日本国内の競争も激化していくはずだ。
はたして今の沖縄が、中国から観光客を呼び寄せるほど魅力的な地域になり得ているかどうか。沖縄の米軍基地を目にしたとき、どのような印象を持つか。そういう懸念はあるが、観光客や留学生をはじめとして中国と沖縄、日本の間で人と人の交流が盛んになっていくのは望ましいことだ。
昨年は尖閣諸島周辺で中国漁船衝突事件があり、領土問題をめぐって日中間の緊張が高まった。それ以前からインターネット上では、中国に対し感情をむき出しにして罵倒を連ねるブログが目立つ。中には、中国が沖縄を占領するだの、日本に来る中国人の留学生や労働者は中国共産党の工作員だ、などと妄想じみたことを書き、排外的ナショナリズムを煽っているものもある。
かつて米国人や英国人を「鬼畜」呼ばわりし、相手への理解を閉ざして内に引きこもった時代があった。その時代はまた、中国人や朝鮮人への差別感情を剥き出しにした時代でもあった。そうやって夜郎自大に陥った揚げ句、日本人は国際感覚や外交能力を失い、戦争という自滅への道を突っ走った。
インターネット上での中国への罵倒を見ていると、その時代のことを思い出す。一見、中国を小馬鹿にし、居丈高に叩いているようだが、その裏には台頭する大国への怯えが見える。差別感情とない交ぜになった怯えが敵愾心を煽り立て、相手の言動に過剰反応してしまう。それが世論となって適切な交渉が行えなくなり、中国との関係を悪化させていくとしたら、これ以上愚かなことはない。
中国が海軍力や空軍力を強化し、東アジアでの軍事的影響力を拡大しようとしていることには強く反対する。それと同時に、在沖米軍の再編強化や、南西重視、島嶼防衛を打ち出して沖縄の自衛隊を倍増しようという動きにも反対である。米軍と自衛隊の最前線の盾として琉球列島が位置づけられ、中国と軍事的にせめぎ合う場となれば、その先には沖縄の衰退と破滅しか見えないからだ。
米国で9・11事件が発生してから十年になる。事件後、沖縄の観光業は大打撃を受けた。中国と日米間の軍事的緊張が高まり、沖縄周辺で武力衝突が起これば、その時に沖縄が受ける打撃は、9・11事件の比ではないはずだ。沖縄が「軍事基地の島」から脱していくことは理想論ではなく、二十一世紀に発展していくための現実的な条件作りである。
そのためにも、東シナ海を軍事的対立と緊張の海にしてはいけない。沖縄は中国や台湾、韓国、ベトナムなど東アジア諸国と政治、経済、芸能、文化など多様な交流を作り出すことで相互理解を深め、そのことによって自らを守ることに力を尽くした方がいい。
大国の武の論理に飲み込まれるとき、沖縄はいいように利用され、犠牲を強いられる。先島への自衛隊配備にしても、そこに見られるのは日本=ヤマトゥを守るために沖縄を利用する現代版「捨て石」の論理である。軍隊が守るのは領土ではあっても住民ではない。沖縄戦の教訓を思い出したい。
中国との関わりにおいて、沖縄はヤマトゥとは異なる歴史を持つ。それを生かして友好を広げる年になってほしい。
二〇〇八年の夏に所用で北海道の釧路市を訪ねる機会があった。街を歩いていて中国からの観光客が目についた。釧路湿原を走っているトロッコ列車に乗ると、中国語を学んでいる地元の大学生がボランティアで通訳をやっていて、中国からの観光客誘致に市として努力している様子がうかがえた。
中国映画のロケ地に北海道が選ばれ、それが観光にも好影響を与えているようだ。ひるがって沖縄はどうか。沖縄における中国からの観光客誘致はまだこれからだろう。十三億以上の人口を持つ巨大な国が、経済発展とともに海外への観光客を増加させている。北海道から沖縄まで、中国人観光客誘致で日本国内の競争も激化していくはずだ。
はたして今の沖縄が、中国から観光客を呼び寄せるほど魅力的な地域になり得ているかどうか。沖縄の米軍基地を目にしたとき、どのような印象を持つか。そういう懸念はあるが、観光客や留学生をはじめとして中国と沖縄、日本の間で人と人の交流が盛んになっていくのは望ましいことだ。
昨年は尖閣諸島周辺で中国漁船衝突事件があり、領土問題をめぐって日中間の緊張が高まった。それ以前からインターネット上では、中国に対し感情をむき出しにして罵倒を連ねるブログが目立つ。中には、中国が沖縄を占領するだの、日本に来る中国人の留学生や労働者は中国共産党の工作員だ、などと妄想じみたことを書き、排外的ナショナリズムを煽っているものもある。
かつて米国人や英国人を「鬼畜」呼ばわりし、相手への理解を閉ざして内に引きこもった時代があった。その時代はまた、中国人や朝鮮人への差別感情を剥き出しにした時代でもあった。そうやって夜郎自大に陥った揚げ句、日本人は国際感覚や外交能力を失い、戦争という自滅への道を突っ走った。
インターネット上での中国への罵倒を見ていると、その時代のことを思い出す。一見、中国を小馬鹿にし、居丈高に叩いているようだが、その裏には台頭する大国への怯えが見える。差別感情とない交ぜになった怯えが敵愾心を煽り立て、相手の言動に過剰反応してしまう。それが世論となって適切な交渉が行えなくなり、中国との関係を悪化させていくとしたら、これ以上愚かなことはない。
中国が海軍力や空軍力を強化し、東アジアでの軍事的影響力を拡大しようとしていることには強く反対する。それと同時に、在沖米軍の再編強化や、南西重視、島嶼防衛を打ち出して沖縄の自衛隊を倍増しようという動きにも反対である。米軍と自衛隊の最前線の盾として琉球列島が位置づけられ、中国と軍事的にせめぎ合う場となれば、その先には沖縄の衰退と破滅しか見えないからだ。
米国で9・11事件が発生してから十年になる。事件後、沖縄の観光業は大打撃を受けた。中国と日米間の軍事的緊張が高まり、沖縄周辺で武力衝突が起これば、その時に沖縄が受ける打撃は、9・11事件の比ではないはずだ。沖縄が「軍事基地の島」から脱していくことは理想論ではなく、二十一世紀に発展していくための現実的な条件作りである。
そのためにも、東シナ海を軍事的対立と緊張の海にしてはいけない。沖縄は中国や台湾、韓国、ベトナムなど東アジア諸国と政治、経済、芸能、文化など多様な交流を作り出すことで相互理解を深め、そのことによって自らを守ることに力を尽くした方がいい。
大国の武の論理に飲み込まれるとき、沖縄はいいように利用され、犠牲を強いられる。先島への自衛隊配備にしても、そこに見られるのは日本=ヤマトゥを守るために沖縄を利用する現代版「捨て石」の論理である。軍隊が守るのは領土ではあっても住民ではない。沖縄戦の教訓を思い出したい。
中国との関わりにおいて、沖縄はヤマトゥとは異なる歴史を持つ。それを生かして友好を広げる年になってほしい。