イスラムとユダ
晃が、失意のうちにベルリンからロッテルダムに舞い戻り、インドネシアから来ている留学生の保護に奔走する中で厄介な問題が出てきた。
スマトラとセレベスの王子が、それぞれにユダヤの女性と結婚していたことである。ユダヤ人は、胸にユダヤの星印をつけて外出するようにドイツ軍によって命じられていた。
ユダヤ人は、一般公共施設、鉄道、公園のベンチなどの利用を禁止されていたし、肉の配給も特定の店舗に限定されていた。ちなみに、敬虔なユダヤ人は、信仰上の理由から血の入った肉を食しない。ユダヤ独自の場があり、そこで作った肉缶詰を持って旅行し、決して異教徒による土着の肉は食べない。また、回教徒と同様に、豚肉は一切口にせず、豚脂(ラード)を料理に使うことはしない。
また、葬儀の時には、死者の生前の邪念を祓い清め、薄板の棺桶に入れ、早く昇天できるように三角の形に三本のくぎを打ちつけて埋葬する。そして、常に携帯しているパレスチナの砂を墓の周辺に少し散布し、あたかも祖国にいるかのように執行するのである。
「妻と一緒に旅行もできないのです。」という、王子たちの嘆きを解決するため、晃は一通の手紙をベルリンの日本大使館に送った。
手紙には、「回教の夫と結婚したユダヤの妻は、回教に改宗したわけであるので、ユダヤの印を胸から外して欲しい。そうしないと、インドネシアの王子たちは、妻と一緒に祖国へ帰ることができない。」と書いた。
その結果、日本大使館からドイツ軍司令部への働きかけがあり、王子たちは無事に帰国を果たすことができた。当時、ヒットラーによるAnti-semite(反セム主義)は、有色人種に対してもある程度影響があったが、必ずしも徹底はしていなかった。
ちなみに、Anti-semiteもしくはAnti-semitismは、反ユダヤ主義としてユダヤ教徒のみを対象としているが、一般にセム族というのはバビロニア、アッシリア、フェニキア、イスラエル、アラム、アラビア、エチオピアなどの諸人種をさしている。彼らは陰陽の神々エロヒム(創世記一章)を信じていたが、やがて、イスラムはエホバ(全能の神)に、イスラムはアッラー(太陽神)に分化した。エロヒムは、エル(女性形)の複数であり、複数の神々を意味しており、もともとは一即多神であった。
つづく