福島第一原発における凍土遮水壁設置にかかわる意見書
凍土遮水壁では放射性物質を長期間完全に封じ込めることが出来ないだけでなく、より大きな事故を引き起こす可能性が高いと思われます。本事故処理に関しては海外における水問題の専門家が注視しておりわが国の科学技術の真価が問われています。したがって、リスクが多い凍土遮水壁の敷設ではなく、地下水の流路変更を含めた他の工法による原子炉及びその周辺施設を完全に外部から遮断できる抜本的な対策の選択を要望します。
要望を提出すべきであると考える理由
陸水にかかわる総合的な学問分野であるLimnology(陸水学)の見地から、凍土遮水壁がもたらす以下の懸念を伝えたいと思います。
(1) 凍土遮水壁ではパイプを地下に敷設してマイナス40~50度の冷媒を循環させて土壌を凍結して凍土の壁を作りますが、水と泥粒子の膨張率が異なることから凍土遮水壁が同時に凍結することはなく、また凍結後も不均質な応力が加わることによって遮水壁にクラック(裂け目)が入る可能性があります。
(2) 凍土遮水壁から離れた場所では、炉心の温度や気温の変動や地下水の流れの変化によって凍土の一部が凍結と溶解を繰り返します。北極圏の事例によれば、このような土地に道路・家屋などを建築しても、地面が傾き用をなさなくなります。これは,凍結融解が不均一に起こり解凍した地盤が弱体化するからです。また土壌水が凍結するとそれによる地盤の体積膨張に加え、未凍結領域から凍結面に向かう水の動きが生じてアイスレンズが成長を続け、凍上(とうじょう)の現象が起こります。凍上によって貯蔵タンクや建造物が傾き破損することもあります。
(3) 日本のように温暖で降水量が多い地域では、凍土を長期間にわたり安定した状態で維持することは困難です。加えて、炉心からの伝導による熱流を上回る莫大な熱量で冷却する必要があります。
(4) 近年の海水温上昇に伴う陸域での雨量増加は地下水や地表水の流れを増加させています。地下水の流れがある場合には,流れによる凍結面からの熱の散逸を上回る大量の冷却熱を排出する必要があります。また豪雨時など地下水流が急激に増加する場合には凍土遮水壁が急速に浸食される可能性もあります。
(5) 何らかの事故で冷却がストップしたり設備が破損した場合、冷媒が周辺に漏れ出たり、凍土が溶解し大量の放射性汚染物質が海中に放出されるなどの危険性が常に付きまといます。実際、北極圏では近年の地球温暖化の影響で永久凍土が溶解し、多量の溶存有機物が海洋や湖沼へ流入しているという研究報告もあります。
(6) 凍結の過程で放射性物質が不凍水中に取り残され高濃度の汚染溶液が生成される可能性も国内外から指摘されています。泥粒子表面の吸着水やこのような高濃度の溶液は極低温でも凍らないと言われています。実際、このような高濃度の溶液が極低温でも凍らないという事例が南極で報告されています。