DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

湖の鎮魂歌(75)

2013-10-09 16:40:40 | ButsuButsu


コーヒーへのこだわりは、天保さんから教わった。

もう20年間くらい購入しているのだろうか。

電話一本で送ってくれるのがうれしい。

彼はボンネージュという喫茶店の店主だ。

JR茨木駅の前に店がある。

小さな店だが、いつも口うるさいお客さんであふれている。

私が買うのはキリマンジャロで、500グラムの袋を二個買う。

注文してから焙煎してくれるので入手まで数日かかるが、届いた時の香りには彼のメッセージが籠められている。

大学へ送ってもらうと、研究室はコーヒー豆のさわやかな匂いであふれる。

これをハンドミルで挽くのだが、これにもこだわりがある。

私は、断固、粗挽き派だ。

粗く挽く方がコーヒーの甘さが出ると固く信じている。

ハンドミルは30年前に京都大学にいた頃に使っていたもので、何回も修理しながらいまだに使用している。

刃も丸みを帯びてきているところを見ると、コーヒーと一緒に鉄分も飲用してきたのかな、とつい思ってしまう。

そう言えば、京大の近くにアラビカという粗挽きコーヒーを飲ませる喫茶店があった。

少し髪の毛が薄いマスターとチャーミングな奥さんが二人でやっていて、なんとなく居心地の良い店だった。

学生時代、よくここへ通っては、オムライスとコーヒーを頼んでいた。

まるでガロの歌に出てくるような店だった。

就職してからも、思い出しては立ち寄った。

1970年、18歳の時に大学へ入ってから通った周辺の飲食店の中で、数少ない生き残りの店だ。

2年前に久しぶりに訪ねたら、そこにはマスターの姿はなく、奥さんだけがカウンターにいた。

自分も老いたけれども、大学町も様変わりしてしまった。

アラビカというのはコーヒーの品種で、世界にある2~3種の中の最大品種だということを天保さんが教えてくれた。

彼は、京大で修士の学位をとってから喫茶店のマスターになった変わり種だ。

京大山歩会という登山サークルの後輩だが、コーヒーでは私の先輩だ。

変わった男が焙煎する変わらないコーヒーの味は、無骨な男に大切なひと時をもたらしてくれる。

私の研究室へやってくる国内外のお客さんは、まずこのコーヒーで歓迎される。

ちなみに水にもこだわっていて、いわまの甜水を使っている。

この水も、30年くらい購入している。

変わらないものがあるから、変わっていることの意味に気が付くのだ。

すべてが変わっていたら、無感動の世界でしかない。

このことを天保さんは、毎回、私に無言で教えてくれる。

10月8日(火)のつぶやき

2013-10-09 04:54:50 | 物語