現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

児童文学を書く上で注意すること

2022-02-26 16:34:31 | 考察

 児童文学を書こうとした場合に、注意すべきことをいくつかまとめておこうと思います。
 まず注意しなければいけない点は、いかに読者である子どもたちの関心を引くかということです。
 児童文学は、作者である大人(子どもが書いた作品もありますが、それは非常にまれなことでしょう)と子どもである読者(最近は大人(特に女性)にも、児童文学の読者は広がっていますが、ここでは便宜上一次的な読者である子どもを想定しています)。
 作者側から見れば一般文学と同様に、自分の関心に基づいて書きたいように書けばいいのですが、児童文学では読者である子ども(それが自分自身の中にある内なる子どもだとしても)を意識する必要があります。
 例えば、「戦争体験をどう伝えるか」を例にあげると、自分自身の経験(実体験に限らず上の世代や外国の人から聞いた場合も含みます)をそのままに書くのではなく、現代および未来を生きる子どもたちに、他人ごとではなく自分自身にも関係のある問題だと思ってもらえるように書く工夫が必要です(例えば、那須正幹の「ねんどの神様」(その記事を参照してください)など)。
 児童文学の場合、自分自身の子どもの頃の体験を書く事も多いと思います。
 その場合は、それを現代に置き換えて書くのか、その時代のこととして書くのかを明確にした方が成功することが多いです。
 子どもたちの風俗は時として変化します(特に高学年や中学生やヤングアダルト物は)。
 それをあいまいにして書くと、どこか作品がピンボケになってしまい、読者の印象に残りにくくなります。
 児童文学の書き方にも流行があります。
 新しい作品を読んで、自分の手法や題材が古くなっていないかをチェックする必要があります。
 よく初心者の作品で、舞台になっている国や時代が不明ないわゆる無国籍童話が書かれることがあります。
 制約がないので、一見書きやすそうですが実はこれば一番難しいのです。
 こういった作品の場合、作品で書かれている部分の外に確固たる世界が広がっているように感じられなくては、読んでいて薄っぺらく感じられます。
 一番いいのは自分自身でひとつの世界観を作り出すことですが、これはよほど才能に恵まれていなければ難しいと思います。
 そこで、もっと楽に書くならば、他人の作った世界観(例えば、トールキンの「剣と魔法」の世界など)を借りてきて、その上で二次創作することでしょう。
 他人の物でも、はっきり世界観を意識して書けば、作品のリアリティは格段に違ってくるでしょう。
 なお、いわゆるリアリズムの作品は、「現実」という世界観のもとで創作されています。
 従来、子どもにわかりやすく伝えるために、児童文学は「アクションとダイアローグ」で書かれてきました(関連する記事を参照してください)。
 それが、80年代に入って、「描写」を前面に出した「小説」的な手法で書かれる作品が増えてきました。
 結果として、児童文学の読者年齢をあげることになり、一般文学へ越境する作品や作家(江國香織や梨木香歩など)が現れました。
 児童文学は女性の読者が圧倒的に多いので、特にL文学(女性作家による女性を主人公にした女性読者のための文学)に越境は多いでしょう。
 こうした手法を幼年文学(幼稚園から小学校三年生ぐらい)に適用して、子どもたちの繊細な感情を描こうという試みもありますが、読者の受容力を考えると限界があるように思えます。
 「子どもたちの風俗をどう描くか」も大きな問題です。
 同時代性を意識しすぎて最新の風俗を描くとすぐに陳腐化してしまいますし、かといって、古い風俗(例えば作者の子ども時代)を現代の子どもに適用するのも現代の子どもたちが読んでピンとこない場合も多いと思います。
 すぐに陳腐化しないような風俗の書き方(例えば、特定のゲームやアニメの寿命は数年ですが、ゲームやアニメという仕組み自体は数十年の寿命を持っています)を工夫する必要があります。
 幼年や絵本を書くのはやさしいという誤解があります。
 本当は、それらを書くのが一番難しいのです。
 読者の受容力が限定されている中で、魅力的なキャラクターを生みだし、ひとつひとつの文章を磨き、より起承転結をはっきりさせて物語のメリハリをつけなければ、気まぐれな年少の読者たちはすぐに本を投げ出してしまいます。
 自分が書きたいのが純文学的な(変な言い方ですが)児童文学なのか、エンターテインメントなのかも、はっきり意識して書かなければなりません。
 エンターテインメントでは、リアリティの追求、細かな心理描写、社会性などよりも、魅力的でデフォルメされたキャラクター(パターン化していてもOKです)、大胆な筋運び(例え偶然を多用したとしてもかまいません)、読者へのサービス(恋愛シーンやスポーツの試合や戦闘シーンなど)などが大事です。
 実際に書き出す前に、自分が何を誰に対してどのように書くかを問うことが必要です。
 ただし、どちらの場合でも、作者が自分自身と読者と主人公のために用意された独自の世界を生みださなければならないことは言うまでもありません。
 また、自分の書き手としての強みが、ストーリーテリングにあるのか、描写力にあるのか、自分自身の体験にあるのかを、はっきり意識することも重要です。

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偕成社
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