1953年公開の日本映画です。
国内のみならず、海外でも歴史上の名画を選ぶときに、必ず上位に入る名画中の名画で、世界中の映画に影響を与えました。
尾道に住む老夫婦(夫が七十ぐらいで、妻が六十八歳なのですが、当時の平均寿命を考えるとかなりの高齢と考えていいと思います)が思い立って、東京に住む子供たち(開業医をしている長男、美容院をしている長女、戦死した次男の嫁。その他に大阪に独身の三男が、尾道の家に独身の次女(末っ子)がいます)を訪ねます。
生活に追われて忙しい長男一家と長女一家は、せっかく初めてはるばる(尾道から夜行で十時間以上かかるので、今で言ったら海外へ行くようなものです)やってきた両親を十分に歓待できません。
その中で、次男の嫁だけは、二人を東京見物に連れて行ったり、狭い一間きりのアパートなのに自室で歓待したり、二人が行き場をなくした時には姑を泊めたりして、せいいっぱい親孝行をします。
その後、母親は帰宅後に急死しますが、その時も、長男と長女は忙しさにかまけて、残された父親に対して十分に面倒をみないで、東京へひきあげます。
次女は、葬儀後も残って後の面倒を見てくれた次男の嫁と比較して、二人を非難します。
しかし、父親はそんな二人に不満をもらしたりはしませんでした。
学生の頃、初めてこの映画を見た時は、二人はなんて冷淡なのだろうと、次女と同じ感想を持ちました。
しかし、その後、自分が彼らと同じぐらいの年齢になると、はたして自分は彼らと違った対応ができただろうかと、自信がなくなりました。
子供たちには、子供たちの生活があるのです。
それと同じように、自分も家庭を持つと、なかなか両親の期待にはそえないものなのです。
そして、自分がこの映画の両親と同じぐらいの年齢になると、そうした子供たちの立場がよく理解できるようになり、彼らと同じように子供たちの人生を受け入れられるようになりました。
そうした意味では、この映画は何度見ても、その時その時で発見があるようです。
なお、次男の嫁は、往年の大女優原節子が演じていて、その魅力がいかんなく発揮されています。
白黒映画ですが、全編に小津安二郎監督ならではの、ローアングルを多用した、美しい映像が堪能できます。