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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

白土三平「誕生の巻」カムイ伝所収

2021-10-31 11:28:00 | コミックス

 「カムイ伝」(ここでは1964年から1971年まで、ガロに連載された第一部を対象にしています)は、江戸時代の寛永の末から寛文年間(1640年ごろから1670年ごろまで)にわたる約三十年間を舞台にした大河歴史漫画ですが、実際には時代背景は史実とはかなり自由に変えてあり、登場人物のメンタリティや言葉遣いは連載当時の日本人にかなり近いものです。
 当時の日本では、高度経済成長をバックに保守陣営と革新陣営が鋭く対立していたのですが、この漫画では現代を舞台にしては自由に書きにくい作者の主張(基本的には、マルクス・レーニン主義や社会主義に影響を受けていると思われます)を、身分社会であった江戸時代を舞台にすることでかなり自由に描いた作品です。
 こうした手法を作者の創作の動機から考えると、児童文学の世界で、リアリズムの世界ではいろいろと制約があるので、ファンタジーの世界でより自由に描くのに近いかもしれません。
 作者の主張が近いために、当時の革新陣営(特に若い世代)に強く支持されました(当時は今と違って、若い世代ほど革新陣営側の考えを持つ人が多く、保守的な考えを持つ人はどちらかというと少数派でした)。
 その後、日本社会が「一億総中流」と呼ばれるほど豊かになっていった1970年代以降に革新陣営が衰退するにつれて、「カムイ伝」の評価もかなり変わってきたのですが、バブル崩壊後に格差社会が進行している日本(未だに国民の意識は「一億総中流」なのですが)ではもう一度見直されてもいい作品かもしれません。
 また、や百姓に対する差別とそれに対する戦いもこの作品の大きなテーマなので、差別について考える意味でも重要な作品だと思われます(ただし、50年以上も前に書かれた作品なので、差別に対する認識が古くなっていたり、用語その他が現代では不適当な部分も含まれています)。
 「カムイ」というと、やがて抜け忍になる出身の忍者が有名ですが、アルピノであるがゆえに家族や群れから疎外されていた白オオカミも同じ「カムイ」という名前で、

 

 

作者の当初の構想は、封建制度の中での人間社会と、自然の中での動物社会を、並行して描こうとする壮大なのものでした。
 その背景には、作者が「忍者武芸帳」などの忍者漫画と並行して、「シートン動物記」などの動物漫画も描いていたことがあると思われます。
 しかし、実際には、白オオカミのカムイは次第に姿を消して、抜け忍のカムイもだんだん脇役に回り(彼の主な活躍場は、「カムイ外伝」へ移行していきます)、巻を追うに従って、百姓(その中でも最下層の下人出身)の正助が主役になっていきます。
 この巻では、主要な登場人物(オオカミもいますが)である、カムイ()、カムイ(白オオカミ)、正助(百姓)、草加竜之進(武士)などの誕生、登場、出会いなどが描かれています。

 


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