現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

ちばあきお「キャプテン」

2024-02-13 11:17:15 | コミックス

 1972年から1979年にかけて、月刊少年ジャンプに連載された野球漫画です。
 東京の下町の墨谷二中を舞台に、野球部の代々の個性的な4人のキャプテンを中心に、従来の魔球や超人的なプレイはまったくでてこないで、猛練習とチームワークで無名チームが日本一の強豪チームになるまでを描いています。
 谷口(1巻の途中から3巻の途中まで):才能にも体格にも恵まれないながら、絶対にあきらめない気持ちと人一倍の努力で、墨谷二中を日本一(ただし、その年の日本一のチームが東京予選の決勝の墨谷二中戦で不正(交代人数をオーバーしました)したことが発覚して、両者による決定戦で勝利したものです)に導きました。
 丸井(3巻の途中から5巻の途中まで):短気でおっちょこちょいだが、チームを愛する気持ちは人一倍の熱血漢で、東京予選は勝ち抜いたものの、選手たちが決勝の死闘でボロボロになって本大会は棄権しました。
 イガラシ(5巻の途中から13巻の途中まで):非常に小柄ながら、沈着冷静な頭脳と無尽蔵のスタミナで、チームを初めて予選から本大会まですべて勝ち抜いた真の日本一に導きました。
 近藤(13巻の途中ごろから15巻まで):体格に恵まれた剛腕投手。ちゃらんぽらんな性格の持ち主だが、新入生たちをかわいがってチームの将来に備えました。
 こうしてみると、谷口がキャプテンをしている姿は、わずかに二巻分にしか描かれていません(彼が高校に入ってからの後日談は、週刊少年ジャンプの「プレイボール」(その記事を参照してください)で描かれています)。
 しかし、墨谷二中の全体を通しての「キャプテン」は、間違いなく谷口です。
 丸井は谷口の熱狂的な崇拝者ですし、イガラシは谷口の最大の理解者です。
 1巻の最後の部分に、それがよくあらわれているシーンがあります。
 東京予選の決勝戦で、強敵(その後全国大会で日本一になります。転校するまで、谷口はそこの二軍の補欠でした)との試合に備えて、谷口はチームに猛練習を課します。
 それに不服な部員たちが、連れ立って夜に谷口の家へ抗議に出かけます。
 谷口は不在で、近所の神社で大工の父親手作りのマシンで、さらに激しい練習をしています(昼間は、部員の練習に追われて自分は練習できないためです)。
 その時のみんなのセリフが、「キャプテン」のすべてだと言っても過言ではありません。
 谷口:(猛練習による怪我を心配する父親に向かって)、「おれたちみたいに素質も才能もないものはこうやるしか方法はないんだ」
 陰で見ていた部員たち:「おれたちのコーチにおわれてこんなところで練習していたんだ」「…」「…」「おれ、家までランニングしよっと」「お、おれも!」「おれも!」「おれも!」
 丸井:退部届(強敵に備えて、一年生ながら上手なイガラシに、やっとつかんだレギュラーを奪われて、退部しようと考えていました)をビリビリに破って、「く、くそっ」と、みんなと同じように走り出します。
 イガラシ:(みんなが抗議に行くのを止めていましたが、こっそりついてきて、谷口、部員たち、丸井の様子を見て)、「これなんだなあ」「キャプテンがみんなをひっぱる力は」
 私は、このシーン、特にイガラシのセリフは、何度読んでも泣けます。
 谷口は卒業しましたが、その精神は丸井によってチームに定着し、イガラシによって真の日本一のチームとして開花するのは必然だったと言えるでしょう。
 作者は、脱谷口の新しいキャプテン像を、近藤の代で描こうとしたのだと思います。
 作者が体調を崩して(詳しくは「プレイボール」の記事を参照してください)、中途半端なままで連載が終わってしまったのが、今でも残念です。

キャプテン 文庫版 コミック 全15巻完結セット (集英社文庫―コミック版)
クリエーター情報なし
集英社

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