児童文学における物語のパターンとして有名なものに、「旅人」と「定住者」があります。
一番わかりやすく有名なものは、イギリスファンタジーの古典であるケネス・グレアムの「楽しい川辺(THE WIND IN THE WILLOWS)」の第9章「旅びとたち」でしょう。
トールキンの「ホビットの冒険」や「指輪物語」、それらに影響を受けたと言われている斉藤惇夫の「冒険者たち」の冒頭部分も、このパターンを踏襲しています。
普段の平凡だけど安定した生活に満足していた「定住者」は、いつの世も、不安定だけど常に何かを求めて移動し続けている「旅人」に憧れを持っています。
ホビットのビルボやフロドも、ネズミのガンバも、「旅人」たちに刺激を受けて、住み慣れた居心地のいい我が家を離れて、冒険の旅へと出発します。
ある者ははるかかなたの遠い世界へ、そしてまたある者は異世界へと、いづれも旅立つ先は芳醇な物語の世界です。
いえ、物語の世界だけでなく、現実世界でも同様でしょう。
沢木耕太郎の「深夜特急」が、いつの時代でも「旅」を夢見る若者のバイブルであるように、我々も機会さえあれば日常から旅立ちたいのです。
一般文学でもこの「旅人」と「定住者」のパターンは使われているのですが、特に児童文学で有効なのは、「旅人」が成長して変化し続けている「子ども」の、「定住者」が成長を終えて同じところに留まっている「大人」の比喩になっているからでしょう。
たのしい川べ (岩波少年文庫 (099)) | |
クリエーター情報なし | |
岩波書店 |