現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

藤田のぼる「現代児童文学史ノートその6」日本児童文学2013年11-12月号所収

2017-08-12 09:46:20 | 参考文献
 この回では、筆者の時代区分によると、第二期後半(1990年代)と第三期(200年代以降)を概説しています。
 第二期後半には、前期(1980年代)に生まれた三つの路線(エンターテインメントの路線、小説化、「他者としての子ども」をモチーフの中心におこうとする創作態度)の発展形に加えて、二つの路線が誕生したとしています。
 エンターテインメント路線においては、それまでエンターテインメント作品の中心だった那須正幹の「ズッコケ三人組」シリーズのような従来の児童文学とエンターテインメントとの「中間小説」(一般文学の世界で、純文学と大衆小説(エンターテインメント)の中間の作品を指す用語です)的な作品から、より本格的なエンターテインメント(子ども向けの本格推理小説など)にシフトしたとしています。
 この路線の代表作家として、はやみねかおる(「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズなど)と松原秀行(「パソコン通信探偵団事件ノート」シリーズなど)をあげています。
 小説化の流れでは、子どもだけでなく広範な読者(私は女性向けという条件を付加したいと考えていますが)を対象とした一般文学とのボーダーレス化を生んだとしています。
 ここの代表的な作家として、江國香織、石井睦美をあげて雑誌「飛ぶ教室」の貢献を指摘し、さらに、講談社児童文学新人賞出身の森絵都、たつみや章、魚住直子、風野潮、梨屋アリエ、草野たき、椰月美知子の名前をあげています。
 「「他者としての子ども」をモチーフの中心におこうとする創作態度」の路線では、富安陽子と高楼方子の名前をあげて、子どもたちへのメッセージをリアリズムの手法で語ることの困難さが増していって、主な作品が従来のリアリズム作品からファンタジー作品へ移行したとしています。
 新しい路線としては、「大きな物語」路線をあげています。
 この路線の代表作家としては、荻原規子(「空色勾玉」など)、上橋菜穂子(「守り人」シリーズなど)、あさのあつこ(「バッテリー」シリーズ)など)をあげて、骨太なストーリーの魅力や大きな世界観が読者を引きつけ、児童文学にとどまらない読者(ここでも女性を中心にしてですが)を獲得することになったとしています。
 もう一つの流れが、年少の読者を対応した絵物語や絵本をあげています。
 ここにおける代表的な作家は、原ゆたか(「かいけつゾロリ」シリーズなど)、いとうひろし(「おさる」シリーズ(その記事を参照してください)など)、きたやまようこ(「いぬうえくんとくまざわくん」シリーズ(その記事を参照してください)など)、あんびるやすこ(「なんでも魔女商会」シリーズなど)、木村裕一/あべ弘士(「あらしのよるに」シリーズなど)をあげています。
 第三期(2000年代以降)については、著者自身がまだ未整理のようですが、以下のようなキーワードをあげています。
 「相互乗り入れ」(角川書店、集英社といった大手出版社の児童書文庫参入とポプラ社の一般書への参入。子どもの本の世界と大人の本の世界とのボーダーレス化など)。
「一つの時代の終焉」(「ズッコケ三人組」シリーズの終了。大阪国際児童文学館の閉館、理論社の倒産など)。
「2006年デビュー組」(菅野雪虫、濱野京子、廣嶋玲子、まはら三桃など)。
「3.11」(「災後」という課題をどう引き受けるのか)
 1990年から2010年代までの二十年以上にわたる日本の児童文学の動向が、短い紙数でうまくまとめられています。
 しかし、今回も多数の作家や作品を網羅的に紹介したために、評論が現象(創作)の後追いになっている感は否めません。
 このような児童文学界の変化がおきた社会的な(子どもを取り巻く環境、児童書出版の状況、さらにはより広範な社会状況など)背景についての、著者の考察がもっと知りたかったと思いました。
 また、2000年以降の第三期に関しては、著者自身も述べているように明らかに従来の「現代児童文学」(定義などについては関連する記事を参照してください)とは異質になっていると思えるので、別のタームを提案した方が良かったと思います。
 「現代児童文学」の特徴の一つである「変革の意思」(社会の変革だけでなくいわゆる「成長物語」による個人の変革も含みます)を明らかに失った(著者があげていた第二期後期の主な作品の大半が、すでに「成長物語」でなく「遍歴物語」(これらの定義については児童文学研究者の石井直人の論文に関する記事を参照してください)です)現在の児童文学(岩瀬成子や村中李衣の作品のような例外はありますが)まで、同じ「現代児童文学」というタームを使うと混乱を招きかねません。

日本児童文学 2017年 08 月号 [雑誌]
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小峰書店

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