LA CAFFETTERIA DI RETROSCENA舞台裏カフェ

テノール芹澤佳通の日常系ブログ (・∀・)

潜伏期間

2023年11月11日 | クラシック音楽

10月は一度も更新がなく、気がつけばポッキーの日になってしまいました。

 

リサイタル後に何をしていたかといいますと、主に来年出演するオペラの準備です。

っていうか現在も準備してますし、まだ終わってません・・・

今回の記事は、オペラ歌手が舞台に立つまでをご紹介します

 

準備とは?

初めて出演する演目の場合、まず初回音楽稽古が始まる前に自分自身で音取りをしなければなりません。

アマチュア合唱団のように練習時間に音取りをすることはなく(部分的に取り上げてやることはある)、プロの現場ではある程度仕上がった状態で初回音楽稽古に参加することが求められます。

僕の今後のオペラ出演スケジュールですが、来年6月までに4作品の出演が決まっており、そのいずれもが初めての役となっています。

もしこれが既に経験している役であれば準備に関してさほど難しいことはないのですが、初めての役、しかも4役となると話は異次元レベルで異なります。

 

オペラの稽古は

音楽稽古→立ち稽古→本番

という流れで進みます。

 

まずは音楽稽古で音楽を作り上げ、音楽が身体に染み込まないと演技(立ち稽古)が出来ません。

 

皆さんの中には「音楽家なんだから、楽譜を見ればそこから音が浮かび上がってくる(脳内再生)んでしょ?」と思う方が多いと思います。

そういう人も居ます。むしろそういった能力を身につけるよう、音高、音大ではソルフェージュの授業があります。

ただ、そういった訓練を受けても一律みんながそれを獲得できるわけではありませんし、そういう音感教育は幼少期の環境が大きく影響します。

 

僕は楽譜を観ても音は取れません(脳内で音にならない)

 

最近それを言語化して説明出来る術を獲得しました。

【音】には「音色情報」と「音程情報」が含まれます。

「音色情報」は誰もが知らず知らずのうちに獲得している「ピアノの音」、「リコーダーの音」、「クラクションの音」等の、音というものを区別する情報です。

住宅街を歩いていて、ふとピアノの音が耳にはいると「あれ?どこかからピアノの音がする」と自動的に認識が働きます。

 

一方、ソルフェージュの授業は「音程情報」の獲得を目指すもので、「どの音色に限らず、含まれる音程情報を認識する」ことを目的とします。

 

僕は高校3年間、大学2年間(必修が2年までだった)の計5年間ソルフェージュの授業を受けましたが(留学中も音楽院で2年間受けたけど、大人になってからなので除外)、一定の成果は得たものの、譜面を見ただけでは全く音は取れません。

「固定ド」、「移動ド」の概念から言えば確実に「移動ド」ですが、それでも隣り合う音程間(長/短2度)の移動すら時に不可能です。

 

僕のようなタイプの場合どうすれば良いのかというと、いくつかやり方はあります。

まず王道なのは【コレペティと呼ばれるオペラ伴奏&コーチングに特化した専門家の下で音取りをしてもらう。】です。

コレペティはオペラの伴奏を弾きながら必要な声部を足して弾いてくれたり、楽曲分析を混じえてサポートしてくれます。

 

多分(笑)

 

なぜ「多分」かというと、僕はお願いしたことが無いからです(笑)

僕のようなタイプはコレペティにお願いしても成果が上がらないのです。そもそも楽譜を見ても音符を音として捉えられらない(音程情報を得られない)ので、指導が指導にならないのです。

楽曲分析で細かく解説されても、僕にとっては文字を見るのと同じ、そこに音程はないのでつねに「ピンとこない状態」のままです。

 

なので僕は毎回オペラの音楽稽古前に自分で音取り音源を作ります。まず音源を作り、耳から正確な音程情報を頭に叩き込み、ある程度染み込んだら音取り音源に合わせて声を出して練習します。

例えば今一番苦労している作品が来年6月のオペラ【 クリストフォロス、あるいは《あるオペラの幻影》】という作品なのですが、その音取り音源の制作はこんな感じです。

まずMuseScore3で歌唱範囲の楽譜を作ります(楽譜見ながら写譜する)

これをMP3変換でオーディオにして(伴奏部分はヴォリュームを下げる)、作りためていきます

後はこれを移動中にiPadで譜面を見ながらずっと繰り返し聴きます。

 

言ってしまえば【カラオケで好きな曲を歌うために聴きまくる】のと原理は同じです(笑)

唯一違うのは、譜面に書かれているのは音程とリズムだけでなく、テンポの変化、アーティキュレーション(奏法)の指示が無数にあります。

そういったいわゆる【味付け】はこの段階では全く組み込んでいません。それは指揮者によって、共演者によって、演技によって千変万化するからです。なので楽譜という【レシピ】を完璧に叩き込み、その後どのようなオーダーが入っても対応出来るよう、記憶します。

記憶する、というのは自分の旋律だけ覚えても無意味なので、相手の旋律、伴奏も記憶します。「ここでこう来るからこう」という風に、音楽は常に対話です。独唱曲であるアリアだって指揮者を通じてオーケストラと対話します。

独りよがりの音楽は箸にも棒にもかからないので、僕のように音程情報の獲得に難のあるタイプは自分なりの方法を模索し、獲得しなければやっていけません。

 

ここまでが音楽稽古前にやっておくべきことです。

そしてその後は立ち稽古が始まります。頭に音楽を詰め込み、追加情報の「動作、演技、導線、舞台上の設定」をこなします。

 

ここまでで膨大な仕事量だ言うことがわかっていただけたと思います。

 

こういった工程を経てオペラ公演が成り立っていきます。二期会の場合だと音楽稽古から本番までが3ヶ月スパンです。もちろんここにオーケストラ、舞台さん、照明さん、各セクションスタッフなど多くの人々が関わります。

 

そう考えると一流プロダクションのチケットが高額なのもご理解いただけると思います。

 

そんな芹澤は、目下来年6月の【 クリストフォロス、あるいは《あるオペラの幻影》】の音源を作りつつ、同じく来年2月の

こちらの稽古と練習に勤しんでおります。

 

この「アドリアーナ・ルクヴルール」というオペラは、フランスの実在した舞台女優アドリエンヌ・ルクヴルールをモデルとした物語となっております。

オペラとしての構成も面白く、オペラの中で舞台の裏側視点が組み込まれていたり、同じ舞台上で異なるシチュエーションが繰り広げられたりしつつ、最終幕では非常に美しい音楽が奏でられる劇的な作品となっております。重ねて言いますが、音楽が本当に美しいです。本当にこんなに熱く、素晴らしい音楽に心を揺らされたのは久しぶりです。

 

ただ・・・

 

 

 

マウリツィオ(芹澤)がクソです。

オペラ界不動のクズ男はピンカートン(蝶々夫人)と相場が決まっていますが、マウリツィオもなかなかです。3幕なんてホストクラブで指名の入ったホストの立ち振舞のようです。

 

 

でも音楽はとても良いんですよ・・・・

 

 

ま、オペラなんて平凡からは生まれませんからね、これくらいクズじゃないとドラマは誕生しないと言うことか(笑)


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