*しみ込んだ老舗の味。
褒紋正宗の喉越しに酔う。
L字カウンターの角にある銅製の大きなおでん鍋から、いい匂いがしている。多古久は、明治37年(1904年)創業の老舗である。この店の日本酒は褒紋正宗のみ。灘の酒造・白鷹の酒だ。常温でも豊かな味わいがあるが、お燗にすると一層丸みをもってくれる。最後にキレがあるから、後味がすっきりとしていて、また杯を口に運びたくなる。昔から、「おでん燗酒」と対でいわれるが、この酒に多古久のおでんというのは最強のコンビネーションではないだろうか。多古久のおでんネタは25種類。人気は、大根、たまご、じゃがいも、がんもといったところ。こんにゃくの味のしみ込み方はすごい。なにせ、仕込む前は白かったこんにゃくが深茶色になっている。かといって、味が濃いわけではなく、濃口醤油の旨味とおでん種から出てくる旨味が混和して、ほどよいというか、絶妙。鍋から取り分けてくれる大女将は、カウンターの内側から客の変遷を見てきた。親子3代にわたって通う客もいる。そのひとりが古今亭志ん生とその家族だ。鈴本の高座で寝てしまった事件は有名だが、高座を降りたその足でここでおでんを食べていたことはあまり知られていない。孫の池波志乃も常連だ。大女将をおかあちゃんと慕っているそうだが、ご飯にがんもを乗せておでんつゆをかけた「しのめし」は彼女の名前から夫の中尾彬が命名している。おでんの店だが(――つづきは買って読んでね)
注:しのめしは隠れメニューです
古典酒場 Vol.8 美酒揃いの日本酒酒場特集 (SAN-EI MOOK) | |
amazon.co.jp↑↑↑ | |
三栄書房 |
【くりす的全国名酒場紀行@多古久】←お店の詳細