いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

日本、海外派兵す~その3

2008年12月01日 16時35分13秒 | 俺のそれ


イケダの操縦するジュウハクは、サポート部隊からちょっと離れてしまっていたが、トルコ軍の救援もあってゲリラからは逃げ切れたのだった。そして、ようやく特機の支援部隊近くまで後退してきていた。

田中1佐から、新たな指示が来た。
増援部隊はそっちに向かっている、距離約8km、ジュウハクの射撃を開始、目標地点はこちらで誘導する、とのことだった。イケダはハッチを開き、最大連射を開始したのだった。1分間に15発の射撃ができ、誘導地点を線状に指定できたので、路上攻撃は割と簡単なのだった。装甲車の移動速度が速い為迫撃砲が遅れて着弾していたが、他の兵員輸送トラックなどは簡単に停車に追い込めた。とりあえず接近を阻止することさえできれば、特機の部隊を撤収できるだろう、と田中は考えていた。
バードからの映像でとりあえず兵力の大半はこの場に止めておけたが、装甲車だけは未だ向かってきていた。特機のサポート車両は殆ど無防備に近いので、装甲車相手ではさすがに歯が立たなかった。警護の2個中隊が何とか食い止めてくれることを期待するしかないか、…こればかりは人間の行う戦闘だから、特機にはどうしようもないからな…田中には、この装甲車を止める手立てが思いつかなかった。


田中は秀太、イチロー、ユキヒロに撤退を命じた。
残党はごく僅かであったし、今回の作戦では十分な戦果が得られたと判断されたからだった。特機の支援部隊はガンタンク、サンゼロやスネークのピックアップして、ジュウハクのいる地点まで戻ってきた。ジュウハクは敵の増援部隊を止めるために、射撃を続けていた。装甲車は依然としてこちらに向かっており、ジュウハクでの攻撃は困難な範囲内に迫ってきていた。

サンゼロはまだ動かせるのか?と田中が確認すると、遅い速度なら動けます、主砲はもう狙っては撃てません、真正面でなら射撃可能ではないかと思います、というサポートからの返事であった。なら、こいつを囮に使おう、イチロー、悪いな、また囮役で、と田中はニタリと笑いを浮かべた。

サンゼロを道路上に、装甲車に対峙させるように配置、他の部隊は全員隠れて、中隊が持ってる対戦車ロケット弾で装甲車を攻撃せよ、と田中は命じた。


いよいよ装甲車が戦闘距離に近づいてきた。
サンゼロは敵装甲車方向に主砲を放ったが、当たらなかった。地面を掘っただけだった。すると敵装甲車は進路を変えながら、サンゼロ目がけて主砲を撃ってきた。車体下部に命中し、完全に移動不能となってしまった。それでも装甲車は砲撃を止めず、サンゼロを攻撃してきた。敵の装甲車がサンゼロへの攻撃に夢中になっている頃、中隊所属のロケット弾の射手は肩に発射器を担いでいたのだった。白煙を上げて発射された誘導弾は、装甲車の車体後部にヒット、直ぐに動きを止めた。装甲車はサンゼロをいたぶった罪により、破壊されたようなものだとイチローは思った。


10

その後、ベースまで戻った特機部隊その他は、○○谷での作戦を終了してトルコ軍と伴に同地域から撤退した。
今後もZ国での戦闘は続くであろう。この戦争は、自分が生きてる間には、終わりがないのではないかな、と田中1佐は思った。


特機システムは、十分実戦でも使える、との結論に達した。しかし、課題もいくつか見えてきていた。

○通信システムに大きく依存するので、この妨害などに遭うと情報が著しく不足したり操作不能などに陥り、戦闘不能状態となるであろう。強力な通信・データ転送システムの維持が必須である。
○距離的な壁が存在し、タイムラグを生じることによる反応の遅さや不正確さという問題がある。
○高速で移動する高い防御力を持つ戦力に対しては、歯が立たない。しかし、そうした正規戦力の多くは、航空戦力や誘導ミサイルなどの攻撃目標となり易いので、まずはそちらで対処するということになるだろう。
○非正規的な戦力に対し隠密的に攻撃する、という点においては、有効性があるだろう。
○人的被害が最小化できる。特に少子化の進んだ日本では有効性が高い。
○オペレーターの能力、習熟度などに依存する部分がまだ大きい。映像などから瞬時の判断や操作を行うので、その為の能力開発訓練が必要である。


こうして陸上自衛隊初の海外派兵は終わったのだった。
次からは、テストケースなどではなくなり、常に実戦ということになるのだった。



日本、海外派兵す~その2

2008年12月01日 16時32分43秒 | 俺のそれ


凧はそれぞれ配置についていた。いくつか壁に取り付く際に、隊員が操作をしくじって、あまり役に立たない場所に設置してしまったものもいくつかあったのだが。衛星、バード、凧、そして車載のカメラ類、これらの協働によって、戦場の死角が消されるのだ。兵士が物陰に隠れる、ということの意味がほぼなくなる。こちらからは全てお見通しだからだった。

ジュウハクは既に特機指揮車を追い越して、もう少し前方に進出していた。陸自の2個中隊とトルコ軍3個中隊は、バックアップ車両群と通信支援車両群の周囲に展開し警戒態勢を整えていた。撤収する際の安全確保には余念がなかった。ベースまでの後方には、残りのトルコ軍が展開しているはずだった。

薄暗い朝靄の中を、スネーク型ロボットの「蛇」が音も無く草むらを進んでいた。
ここまでは順調だった。その後方約300mには、秀太の操縦するガンタンクが起伏を避けながら、静かに進んでいた。残り200m程度で監視所に到達する。監視所の奥には、岩盤の中にくりぬかれたトーチカが左右にあり、その奥には戦車などの大型車両の出入りが可能な鉄扉があった。

蛇は鉄扉の近くまで進むことが目標であった。誰にも気付かれずに、切り立った岩盤に沿って、滑るように進んでいった。


田中1佐は、若者たちに呼びかけた。
準備はいいか?―OK、快調ですよ、大佐、とイチローが言った。イチローは何故か、田中のことを「大佐」と呼ぶのだった。田中はそれを禁止することはしなかった。
田中は画面に映る監視所の兵員たちを観察していた。既に蛇や凧のカメラ映像から、敵の人数がコンピュータによってカウントされていた。射撃可能を示すランプがグリーンに点灯していた。田中は、オレの指示があるまで撃つな、近づくのが先だ、と秀太に命じた。

秀太のガンタンク5台は、秀太が先頭車両をまず操作し、後方に4台が約50m間隔で追ってきていた。田中は秀太に、先頭車両を待機させ、別の2台を2時方向に迂回して配置させるように命じていた。イチローのサンゼロは更に後方約1kmに待機していた。午前5時24分、それぞれが配置についた。

田中は、各人戦闘よーい、、、いいか?シュウタ?いくぞ!射撃開始!!と命じたのだった。
戦端は開かれた。
秀太のガンタンクは、モニター画面に標的としてマークされた兵士たちに次々と射撃した。秀太の得意の射撃ボタン連打。レバーを巧みに操作しながら、車体の姿勢をコントロールしていた。
監視所の兵士達はどこから飛んでくるのかまるで分らないままに、複数方向から放たれた銃弾に倒れていった。10秒にも満たない時間で、バースト射撃の弾丸が兵士達全員を正確に射抜いた。

よし、ここからが本番だぞ、と田中は戒めた。複数のモニター画面にはサーチアラームが激しく点灯していた。トーチカ付近から、兵士達がバラバラと外に向かって展開してきたのだった。

カメラには建物の陰に隠れる兵士達が並んで映し出されていた。彼らには、一体どこに敵がいるのかさえ、まるで見えていなかった。小隊長と思しき兵士が、部下の兵士たちに散開を指示し、それぞれ持ち場へと散っていった。敵を探そうと試みているのだろうが、ガンタンクは小さい上に、人間の姿かたちをしていない為に直ぐには発見されにくかった。火点が発見されなければ、中々見つけられない。

田中は秀太に、展開した兵士達を捕らえられる位置にいるガンタンクに射撃させた。秀太のガンタンクはノロノロとキャタピラを回しながら前進し、散開した兵士たちに銃弾を浴びせていった。兵士たちの恐怖に歪んだ顔。どこから撃たれているかまるで分らないというのは、これほど恐ろしいものなのか。ガンタンクの自動全自動照準システムは、カメラ映像と完璧に連動している為、目標を外すということが、基本的に殆どないのだった。3発の弾丸が兵士の体に着実にヒットし、肉を切り裂き骨を砕いた。

秀太は、田中に言ってきた。
隊長、操作とモニター映像とのタイムラグが大きいです、約1秒強、遅れて反応しています、これでは正確な操作が難しいですよ、と文句を言ってきた。そうだった、ここと戦場ではかなり距離があるので、通信や電気回路の遅れがどうしても出てしまうからだった。絶対的な遅れは、光速の物理的制約を受けてしまう、ということを実感させるには十分だった。田中は、反応の鈍さはお前の腕でカバーしてくれ、と秀太を宥めた。


散開している兵士たちは片付いた。
サンゼロもジュウハクも未だ出番がないので、イチローなんかは、ねえ、まだ?オレの出番はまだ?と、田中に催促を繰り返していた。けれど、実際にそんな相手ではないので、必要性があまりなかったのだった。ここから奥の建物群の向こう側に、兵士たちの一団がいるのが、モニターに捉えられていた。対戦車ロケット弾や携帯式対空ミサイルを持つ複数の兵士たちがいた。ここを抜けなければ、トーチカ付近には到達できないのだった。

秀太のガンタンクは建物の壁際に沿ってゆっくり進んでいたが、サポートの隊員が操作する1台が突然爆発したのだった。迂回させておいた2台のうちの1台だった。恐らく地雷にやられたのだろう。田中は、心の中でチッと舌打ちした。もっと慎重にルートを選べばよかったか、順調に行き過ぎて油断したな、と少し後悔した。敵軍に、こちらの居場所を感づかれてしまうのは、一番まずい。爆発したガンタンクの方向へと兵士達が向かう姿が、モニターに映し出されていた。

田中は、残った一台には待機させ、射撃範囲に入った敵は全部撃て、と命じ、ロケット弾などを装備している敵の方に秀太のガンタンクで攻撃を継続させるように指示した。秀太のガンタンクは射撃範囲の敵を幾人か倒したものの、建物の向こう側には車体本体が到達できなければ、撃てない場所だった。

イケダ、5発お見舞いしてやれ、と田中は命じた。後方に待機していたジュウハクは、ハッチを開いて5連射した。距離は約7km、兵士たちには、真上から落ちてくる迫撃砲弾の音は聞こえていなかった。モニター画面上に映された着弾予定地点に向かって、迫撃砲弾は小さなフィンでクルクルと回転しながら正確に着弾したのだった。コンクリート片や木材などがあたり一帯に飛び散り、もうもうと白煙に包まれた。ここに展開していた兵士達の半分以上は、その場に倒れていた。カメラ切り替え、と秀太はユキヒロに向かって叫んだのだった。赤外線カメラの映像が2つと光学式カメラの映像が別モニターに映し出された。ジュウハクの射撃に慌てた兵士達がバラバラと走り出したところを、秀太のガンタンクが着実に撃ち抜いていった。
一方、地雷で破壊されたガンタンクの方にも兵士達が接近していたが、残った1台が茂みに隠れたまま待機しており、このガンタンクの射撃が着実に敵兵力を削っていった。敵兵士たちは、時々めくら撃ちをしてくることもあったが、まるで見当違いな方向に弾が飛んでいくだけだった。

秀太のガンタンクは、いよいよトーチカの手前付近まで到達した。
トーチカからは、重機関銃がその銃身の一部を突き出していた。このトーチカを突破するのは、中々大変だな、と田中は思っていた。ここで終わりでは話にならない、どうにかおびき出すしかないな、と心の中でつぶやいた。
よし、イチロー、トーチカの隙間を狙って撃てるか?と、田中は確認した。ハイ、大佐、蛇からの画像を下さい、と即答してきた。モニターがいくつか切り替えられ、トーチカのズーム画像がモニターに出された。射撃開始、と田中が命じた。イチローのサンゼロは、全速前進で一気にトーチカ正面に現れたと同時に、30mm機関砲が火を吹いた。イチローは待ちくたびれて、それまでの鬱憤を晴らすかのように、機関砲の射撃のボタンを押したのだった。トーチカの僅かな隙間にサンゼロのレーザービームが自動制御で照射され、それと同時に超音速の弾丸がトーチカに飛び込んでいった。恐らく、突然現れた敵車両に慌てたもう一方のトーチカからは、重機関銃が発射された。イチローのサンゼロの車体や砲塔に当たってはいたが、その程度の弾丸には耐えられるのだった。重機関銃の音が一瞬止み、次は対戦車ロケットか対戦車砲が発射されるということだろう、と田中もイチローも思った。

イチローのサンゼロは、クルリと砲塔を回転させると、レーザービームが正確に照射された。トーチカ内にいた兵士の1人は、そのビームをまともに見たかもしれないが、次の瞬間にはこの世からは消えてしまったであろう。先のトーチカと同じく、30mm機関砲の弾丸が飛び込んでいったのだった。蛇や凧の画像がなければ、これほど素早く射撃を繰り返すことはできないし、ズーム画像は寸分狂いなく弾丸を叩き込むには必要な情報であった。




トーチカを完全に沈黙させた後、秀太のガンタンクは壁際をノロノロと前進した。扉の向こうから敵が出てくるのを待たねばならなかった。ここから先は、バードのカメラからは拾えない、窪んだ地点になるのだった。恐らく、敵はイチローのサンゼロの存在を知っただろう。これに対抗する為の手を講じてくるはずだ、と田中1佐は考えていた。秀太のガンタンクが発見されていたかどうかは定かではなかった。

扉の正面付近からイチローのサンゼロを少し後退させ、直線的な攻撃を受けない範囲に待機させた。更に、残りのガンタンク2台は、秀太のガンタンクの後方約200mm地点に待機させた。迂回させた地雷原の1台はそのままにしておいた。


敵の動きがなく、約30分ほど経過しただろうか。
遂に扉が開いた。
旧型だが、ロシア製の戦車のご登場だった。先頭には前世紀のポンコツと目されるT-90、続いて今世紀に出されたという重装甲戦闘車3両が、キャタピラを鳴らしながら出てきたのだった。イチローは、こんなの敵うわけないじゃん、と愚痴をこぼした。確かに30mm機関砲では対抗できるわけがなかった。

田中は、とりあえず後退しつつ戦車隊をおびき出せとイチローに言った。その後、後退しつつ機関砲を撃ったが、全て弾かれてしまった。T-90はちょっと怒ったように主砲を発射したが、サンゼロの脇を際どく外して峡谷の壁面を激しく砕いた。よし今だ、スモークで敵の前進スピードを殺せ、その後で戦車に当てなくてもいいけど、機関砲で周りの建物目がけて適当に射撃しろ、と田中1佐はイチローに命じた。イチローは、ハイ、ハイ、大佐殿、と悪態をついてから、スモーク弾を発射し戦車群の進路を煙だらけにした。それに続いて、命令通りに機関砲を目くら撃ちした。辺り一帯は煙と機関砲で刈り取られたブロックの破片などが白煙を上げて飛び散り、30mm貫徹弾とともに戦車にカンカンと鈍い音を立てて激しく降り注いだ。戦車隊は攻撃に備えるのと視界不良の為、殆ど停車状態となった。味方同士の車両が激突する危険性もあるので、それは止むを得ないことだった。

田中は間髪入れず、イケダに対戦車砲弾発射を命じた。
ジュウハクから放たれた迫撃弾は、T-90の上面に向かって真っ逆さまに落ちていった。機関部と砲塔の上面に誘導された砲弾がヒットすると、激しい火花と煙を上げて炎上した。後方にいた重装甲戦闘車の対空機関砲兼用砲塔が索敵の為に回転していたが、どこから攻撃されたのかは彼らには判っていなかった。イケダは次々と対戦車砲弾を発射、T-90の後ろにいた重装甲戦闘車を炎上させた。その後方約200m地点にいた残りの重装甲戦闘車は微速後退を始め、最後尾の戦闘車は扉方向に向かって転回し逃げ戻ろうとしているようだった。ジュウハクが発射した対戦車砲弾は3両目の重装甲戦闘車の上部を確実に捉えたが、4両目の戦闘車は間一髪で扉のあるくぼみ地点に逃げ込んだのだった。その場で再び旋回して、砲塔を正面に向けて停止した。


あいつが正面にいる限り、内部に攻撃するのは難しくなる…どうするか…、と田中は思案した。が、今はとりあえず状況整理だな、と思いなおして、蛇は侵入できたのか、と尋ねた。するとユキヒロから、もう3つ入ってますよ、と答えが返ってきた。よし、上出来だ、でかしたぞユキヒロ、と田中は称賛した。ガンタンクが入るまで待機しててくれ、とユキヒロに言い終えると、秀太に、ガンタンクを突撃させてくれ、と言ったのだった。秀太は思わず、ハア?と聞き返したが、田中の指示は、イチローのサンゼロをおとりに使って戦闘車の注意を引いている間に、秀太のガンタンクを戦闘車に下面にぶつける、というものだった。ガンタンクは敵側に回収されるのを防ぐ為に、自爆装置がついており、これを爆破させれば戦闘車を潰せるのではないか、ということだった。しかし、まともに近づこうとすると敵に察知されて攻撃されるかもしれないので、サンゼロをおとりに使えというのだ。

しかし、サンゼロが果たして重装甲戦闘車の主砲に耐えられるか?向こうの主砲は40mmの長銃身機関砲だ。当たれば、サンゼロは大破するだろう。後は、イチローと秀太のテクニックに期待するしかない…


田中はガンタンク3台が高速前進できる配置につくと、イチローに命令を出した。重装甲戦闘車の目の先をうろついてやれ。
イチローは、やられるかもしれんな、と腹をくくり、目一杯時間を稼ぐことに集中した。敵戦闘車の主砲の直撃弾を食らわないよう、サンゼロを巧みに操った。時折サンゼロ目がけて機関砲を撃ってくるものの、サンゼロには当たらなかった。
よし、秀太、全速前進だ、と田中は叫んだ。
3台のガンタンクは縦に並んで前進を開始。目立たぬように壁際や瓦礫の陰などを利用しつつ、敵戦闘車を目指した。
しかし予想外なことに、扉の向こうから敵兵が再び出てくるようだった。蛇から送られたモニター映像には、残っていた敵兵が大量に映っており、アラームがけたたましく点灯していた。重装甲戦闘車よりも前方に敵兵が展開することになれば、ガンタンクは近づけなくなってしまう。田中は焦った。

戦闘車よりも前に敵兵を出すな、絶対に出すな、いいか、秀太、3台のうち1台が到達できればいいんだ、判ってるな?残りで敵兵を殲滅せよ、いいな?と田中は大声で秀太に確認した。
秀太は、ガンタンクの操作に大忙しで、ヘイヘイと生返事をしただけだった。

ユキヒロ、蛇から攻撃できるか?と田中が尋ねると、うーん、一つだけならできるかも、とユキヒロは答えた。それでいい、とりあえず、1人でもいいから出口付近から出られないように小細工をしてやれ、と田中は指示した。ユキヒロの操る蛇は巨大な鉄扉の近くにやってくる兵士目がけて、ニードル弾で攻撃を開始したのだった。




秀太のガンタンクは重装甲戦闘車まで、あと50mほどに迫っていた。他のガンタンク2台は、そこから少し遅れて約100mほど後ろにいた。蛇のニードル弾はあっという間に使い果たした。敵兵は10人以上倒れていたが、敵側はそんなことにはおかまいなく、扉を出ていったのだった。向こうも必死なのだ。秀太のガンタンクはやむなく敵兵に機関銃掃射を浴びせて、倒すより他なかった。重装甲戦闘車がガンタンクの存在に気付かずにいてくれることを祈るだけだった。

が、敵兵が重装甲戦闘車のそばに駆け寄ってくる度に倒されていくのに気付いたのか、何かを探すような感じで砲塔が動いていた。秀太は、ヤバいよ、見つかっちゃうよ、と田中1佐に懇願するように言った。あともう少しなのに。あと50mだけ駆け抜ければ、到達できるのに。
田中は、できるだけ接近するんだ、それしかない、とだけ伝えた。重装甲戦闘車が前進をはじめそうな気配だった。
ひょっとして、場所を変えるつもりか?総反撃でもやるということか?田中は、敵側の意志を図りかねていた。敵兵士たちの部隊が重装甲戦闘車の周りに到達してしまった。後は、向こうが動き出して、反撃にでようということなんだろう。


更に、悪い知らせが飛び込んできた。
ジュウハクの北側約20kmに敵の装甲車が現れた、という監視衛星からの情報だった。隠蔽してあった部隊と装甲車があったのだ。恐らく峡谷方向に向かって、進撃してくるに違いない。そうなれば、峡谷で挟み撃ちされる、ということになってしまう。トルコ軍は道路に沿って展開しているが、ベースまでは距離があるし、ジュウハクのいる地点からベースまで後退するのは間に合わないだろう。峡谷の入り口手前に展開している特機のサポート部隊と警護部隊は、敵の増援部隊を撃破しない限りベースには戻ってこれない。

田中1佐は、支援部隊がこんなに早く危機に晒されるとは思っていなかった。周辺の安全状況は確認済みだと思っていたのに、と後悔していた。田中はイケダに指示を出した。全速でベース方向に後退せよ、途中、敵部隊との距離を見てジュウハクの射撃をさせる、ということだった。イケダはサポート部隊のいる地点に向けて移動を開始した。が、僅か数分後に、敵ゲリラの待ち伏せに遭ってしまった。警備に当たっていたトルコ軍が急襲され、逃げるジュウハクに向けて対戦車ロケット弾を撃ってきたのだった。バードのカメラは、敵ゲリラたちが木々の陰から次々と湧き出てくる様を映していた。イケダは完全にパニくってしまい、ワナワナと手が震えていた。ジュウハクの至近距離にロケット弾が着弾し、激しく土煙を上げた。ジュウハクは敵から逃げ惑うのに必死になりすぎて、方向感覚をも見失い、後退するはずが、逆に遠ざかってしまっていた。

田中は、大声で怒鳴った。
イケダ、しっかりしろ!、冷静に操作すれば必ずうまくいく、我を失うな、イケダ!聞えるか!…
イケダの耳には、途切れ途切れにしか田中1佐の声が届いてはいなかった。複数のモニター映像と、敵の識別時に出されるアラーム点灯、いくつものモニターに点滅するランプに慌ててしまって、完全にパニックに陥っていた。正しく判断したり操作したりができなくなっていた。すると、横にいたサポート係の女性スタッフが、いきなりイケダの横っ面にビンタを食らわせたのだった。イケダさん、しっかりして下さい、ジュウハクを操作できるのはイケダさんしかいないんですよ、ジュウハクが戻れなければ特機の支援チームは全滅しかねないんですよ、しっかりして下さい!!
イケダはジンジンする頬の痛みで、ようやく我に返った。


秀太のガンタンクは湧き出る敵兵に弾丸をばら撒くのに必死だった。
重装甲戦闘車が移動を開始して歩兵部隊と共に展開すれば、いずれガンタンクは発見され撃破されてしまうかもしれないな。ガンタンクはただの機関銃を搭載した、移動できるおもちゃの自動車みたいなものでしかないんだから。強力な戦車なんかとは違うんだから。撃たれてしまうと、軽く破壊されてしまうような、弱々しいおもちゃだからね…。クソッ、もうダメかな、この作戦はうまくできなかったかもしれない…

イチローの声が秀太の耳に飛び込んできた。
大佐、このままでは作戦失敗となります、今サンゼロが出れば足止めできるでしょう、けど主砲をモロに食らって動けなくなるかもしれませんが、でも出ますから、秀太、いいか、聞えてるだろ、イチニのサンだから、な、判るだろ?秀太なら、な?

モニターにはサンゼロが30mm機関砲を重装甲戦闘車の方向に射撃しながら、姿を現した。敵の主砲の射界に入ってしまっていた。けれども、怯むことなく車体を左右に振りながら、砲塔だけは扉方向に向け続け、射撃を止めなかった。敵兵の前進は止まり、30mmの弾丸が周囲の空気さえも切り裂いていった。重装甲戦闘車も主砲で応戦してきた。主砲の周りは熱でモニター映像が歪んでいるように見えた。そしてサンゼロの車体の一部が、敵機関砲に削り取られていった。砲塔部の左半分は大きく削れ、機関砲の照準装置は全く動かなくなってしまった。主砲がむき出しで見えるようになってしまっていたが、それでも運良く炎上は免れていたのだった。

このサンゼロの犠牲のお陰で、秀太のガンタンクは重装甲戦闘車の下面付近に到達できたのだった。非常に近い場所だと、彼らの死角に入る為に発見されにくくなるだろう。昔の大戦時の、戦車の下に地雷を置きに行った兵士みたいなものだ、と秀太は思った。イチロー、ありがとよ、お陰でここに辿りつけたぜ、さよならガンタンク、今回限りでゴメンね、……食らえ、自爆装置!
重装甲戦闘車の下部で巨大な火柱が起こり、戦闘車の車体の一部が浮き上がった。次の瞬間、戦闘車の内部で爆発が起こり、主砲が上に向かって吹き飛んだ。完璧に戦闘車を沈黙させた。

(字数がオーバーしたので、つづく…)