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9月の旅行中、ソウルで会ったYさんから本をプレゼントされました。
昨年12月にいただいた漫画チェ・ギュソク「泣くには少しあいまいな」については、過去記事(→コチラ)で書きました。
今回はイ・エラン「北韓食客(북한식객」。前回に続いて大正解!の本です。
イ・エラン(이애란)さんは脱北者の女性として初めて博士号を取得した人で、現在は敬仁女子大学校食品栄養学科教授。また自身が設立した北韓伝統飲食文化研究院の院長です。
彼女は専門の北朝鮮の食品文化以外のことでもしばしばニュースに登場する人でもあります。
たとえば、2012年3月の中国公安に捕まった脱北者の強制送還反対運動では、朴宣映自由先進党議員に続いて中国大使館前で18日間断食闘争を続けたことは、本ブログの記事(→コチラ)でも書いた通りです。
また最近では、9月12日「朝鮮日報」の連載コラム「萬物相」に「イ・エラン統一薬菓」と題して彼女が北朝鮮との境界線に近い黄海上の白翎島(ペンニョンド)を守っている韓国軍将兵に<イ・エラン統一薬菓>6千箱を届けたことが書かれていました。(→コチラ。→日本語版。)
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【イ・エラン統一薬菓。薬菓については10月23日の記事で書いたところです。】
さて、この「北韓食客」という本の内容ですが、彼女が専門とする北朝鮮の料理の話が基本にすえられていても、それに関連して書かれている次のようなことが実に興味深く書かれているのです。
①南北の料理の食材や調理法の違い、料理の名称の違い
②北朝鮮内各地方の料理の特色
③北朝鮮での家庭料理と、食堂等の外食文化について
④北朝鮮社会での料理をめぐる人間関係(接待の文化等)
⑤韓国に来た脱北者から見た韓国社会(驚いたこと等)
この本を読み始めたのが10日ほど前。約3ヵ月かけて読了したチョン・ユジョンの「7年の夜」や「28」と比べるとページ数も半分の約250ページの上、1つのテーマごとに3~4ページの構成で読みやすく、スイスイ読めます。もう3分の1ばかり読んだので、1ヵ月以内に読み終えそうです。
具体的に紹介したい部分がたくさんあります。彼女の詳しい経歴等も含めて、続きで順次紹介していこうと思いますが、とりあえず最初の方に書かれているエピソードから。
1997年、彼女がソウルに来てからまだ半月ばかりの頃。見慣れない街を歩いていて目に入ったのが赤地に白く書かれた飲食店の看板。次のように書かれていました。
'할머니 뼈다귀 해장국' ハルモニのピョダグィヘジャングク
これを見て、彼女はとても驚いたそうです。一緒にいた家族も同じく。
뼈다귀 해장국(または뼈 해장국.ピョヘジャングク)は1人前のカムジャタンともいわれ、豚の背骨を唐辛子や長ネギ等と一緒に煮込んだ料理です。뼈다귀または뼈は骨のことです。
つまりこの看板はハルモニ(おばあさん)の「骨(ピョ)ヘジャングク」という店名なのですが、それをイ・エランさんたちは「ハルモニの骨」ヘジャングクと思ってしまったのです。
北朝鮮には、ハルモニのような個人を示す店名の食堂はないので誤解してしまったのでしょう。
彼女はキツネが少女をだまして喰ってしまう「九尾狐」の話を連想したそうです。
※映画にもなった「九尾狐」は、韓国では「구미호(クミホ)」と音読しますが、北朝鮮では固有語を用いて「구미여우(クミヨウ)」というそうです。
このエピソードは先に引用した「萬物相」にも書かれていましたね。
店の名で検索してみると、安養(アニャン)市内のハルモニ・ピョヘジャングクの店の画像がありました。
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【ソウル近郊の町だし、この店の可能性はありますね。よくありそうな店名ではありますが。】