6月16日の記事<駅の掲示板のハングル表示の問題>(→コチラ)で「上大岡」という駅名のハングル表示についてふれたところ、とくにハングルにおける長母音の表記や発音の問題についていくつかの興味深いコメントをいただきました。
昨日は、映画にも韓国語にも(&その他もろもろ)造詣が深いconfuocoさんが映画「ローマの休日」の韓国語ポスターについて教えて下さいました。(→confuocoさんのブログの関係記事)
上左の黄色い字で書かれている名前に注目!です。
「오-드리-・헾버-ㄴ」(オードゥリー・ヘプボーン)
「그레고리-・팩」(グレゴリー・ペク)
「윌리암・와일러-」(ウィルリアム・ワイルラー)
長母音もしっかり表記しています。短母音だと「번」(ボン)となるところを「버-ㄴ」(ボーン)と分割して、「ㄴ」(n)を単独で表記している点などは現在ではまず見られないでしょう。(本か何かで見た記憶はありますが・・・。)
「ローマの休日」(米.1953)の日本公開は1954年。韓国でも1955年に公開されたそうです。つまり、その時点ではこのような長母音の表記が一般的に行われていたのですね。
母音の長短はこのような外来語だけでなく韓国語にも本来的にはありました。固有語・漢字語を問わずです。
固有語の例でよくテキストにあげられているのは「눈」(ヌン)や「말」(マル)です。
前者は「ヌン」=目、「ヌーン」=雪、後者は「マル」=馬、「マール」=言葉 と、母音の長短により意味が違ってきます。
辞書を見ると、漢字の発音にも長短の別が示されています。
たとえば、私ヌルボが以前から気になっていた漢字語に「대장」(テジャン)があります。
ところが、この表記に相当する熟語は「大将」「隊長」「大腸」「台帳」といろいろいあります。
ちなみに「소장」(ソジャン)にも「少将」「所長」「所蔵」「小腸」といろいろあるので、過去記事の<これは楽しい(?)韓国語クイズ② [同音異義の漢字語編]>(→コチラ)でちょっとふざけて(?)出題した「소장은 대장이 좋지 않다고 말했다.」などという文は、実に多様な解釈が可能になってしまいます。
で、この2つの漢字音の長短についても、次のように辞書では区別されています。
・「대」・・・・[短]隊・台
[長]大・代・対
・「장」・・・・[短]長・場・腸
[長]将・醤
まあ、この「대장」も漢字で書いてくれていれば問題なしなんですけどねー。また、もし母音の長短が明確に区別されて発音され、その通り表記されていれば少しは誤解は減るというものですが、今の韓国をみるとそうはいかないのです。
最近(6月13日)刊行の野間秀樹「韓国語をいかに学ぶか」(平凡社新書)にこの件について1ページあまりを充てて次のようなことが書かれています。
・標準語では(本来的には)母音の長短で単語の意味を区別する。アナウンサー等はこうした長母音を意識して発音する。
・1950~60年代くらいまで、ソウル言葉の話者たちはこうした母音の長短で単語の意味を区別していた。現在でも高齢者には区別を保持している話者がいる。
・70年代頃になり、若い層は長母音を長く発音しなくなった。現在、辞書には長母音記号の記載ははあり、学校の「国語」の教科書にも長母音の存在が記述されているが、教師自身の発音からして長母音がなくなっていて、目も雪も「ヌン」と短く発音している。
今、膨大な数の長母音の単語をおおむね認識しているのは、一部の韓国語学者くらいのものである。
・このような、長母音が50年やそこらで崩壊する変容は実に驚くべきことである。
・学習にあたっては、長母音がかつて存在したという知識として知るに留め、基本的にすべて短母音で発音してよい。
・・・というわけです。
したがって、昔は「オードゥリー・ヘプボーン」と発音していた韓国人も、今は「オドゥリ・ヘプボン」になっているとみてよさそう。昨年~今年の韓国映画の大ヒット作「怪しい彼女」では主人公の女性が「オードゥリー」と名乗ったりしています。7月11日日本公開ということなので、そのあたりも聞いて確認してみます。(作品自体も大期待作ですが・・・。)
長母音がいくつも入る外国人の名前は、と考えてなんとなく思いついたのがタイトルに書いた「ジョージ・バーナード・ショー」でした。確認してみると、ハングル表記は「조지 버나드 쇼」と、韓国語学習者にはとくに驚くこともない綴りでした。カタカナ書きすると「ジョジ・ボナトゥ・ショ」。
人名以外では「マハーバーラタ」とか「サーターアンダーギー」なんてのが気になるところ。確かめてみたら前者はやはり「마하바라타」(マハバラタ)。後者は未確認ですが、おそらく「サタアンダギ」なんだろーうなー。
なお、「한국」(韓国)の「한」(ハン)も本来的には長母音なので、「ハングク」ではなく「ハーングク」が正しい!・・・って、皆さんご存知でしたか?
【野間先生、4月の「日本語とハングル」(文春新書)に続いて刊行。精力的に仕事をされています。】
昨日は、映画にも韓国語にも(&その他もろもろ)造詣が深いconfuocoさんが映画「ローマの休日」の韓国語ポスターについて教えて下さいました。(→confuocoさんのブログの関係記事)
(<DAUM映画>より)
上左の黄色い字で書かれている名前に注目!です。
「오-드리-・헾버-ㄴ」(オードゥリー・ヘプボーン)
「그레고리-・팩」(グレゴリー・ペク)
「윌리암・와일러-」(ウィルリアム・ワイルラー)
長母音もしっかり表記しています。短母音だと「번」(ボン)となるところを「버-ㄴ」(ボーン)と分割して、「ㄴ」(n)を単独で表記している点などは現在ではまず見られないでしょう。(本か何かで見た記憶はありますが・・・。)
「ローマの休日」(米.1953)の日本公開は1954年。韓国でも1955年に公開されたそうです。つまり、その時点ではこのような長母音の表記が一般的に行われていたのですね。
母音の長短はこのような外来語だけでなく韓国語にも本来的にはありました。固有語・漢字語を問わずです。
固有語の例でよくテキストにあげられているのは「눈」(ヌン)や「말」(マル)です。
前者は「ヌン」=目、「ヌーン」=雪、後者は「マル」=馬、「マール」=言葉 と、母音の長短により意味が違ってきます。
辞書を見ると、漢字の発音にも長短の別が示されています。
たとえば、私ヌルボが以前から気になっていた漢字語に「대장」(テジャン)があります。
ところが、この表記に相当する熟語は「大将」「隊長」「大腸」「台帳」といろいろいあります。
ちなみに「소장」(ソジャン)にも「少将」「所長」「所蔵」「小腸」といろいろあるので、過去記事の<これは楽しい(?)韓国語クイズ② [同音異義の漢字語編]>(→コチラ)でちょっとふざけて(?)出題した「소장은 대장이 좋지 않다고 말했다.」などという文は、実に多様な解釈が可能になってしまいます。
で、この2つの漢字音の長短についても、次のように辞書では区別されています。
・「대」・・・・[短]隊・台
[長]大・代・対
・「장」・・・・[短]長・場・腸
[長]将・醤
まあ、この「대장」も漢字で書いてくれていれば問題なしなんですけどねー。また、もし母音の長短が明確に区別されて発音され、その通り表記されていれば少しは誤解は減るというものですが、今の韓国をみるとそうはいかないのです。
最近(6月13日)刊行の野間秀樹「韓国語をいかに学ぶか」(平凡社新書)にこの件について1ページあまりを充てて次のようなことが書かれています。
・標準語では(本来的には)母音の長短で単語の意味を区別する。アナウンサー等はこうした長母音を意識して発音する。
・1950~60年代くらいまで、ソウル言葉の話者たちはこうした母音の長短で単語の意味を区別していた。現在でも高齢者には区別を保持している話者がいる。
・70年代頃になり、若い層は長母音を長く発音しなくなった。現在、辞書には長母音記号の記載ははあり、学校の「国語」の教科書にも長母音の存在が記述されているが、教師自身の発音からして長母音がなくなっていて、目も雪も「ヌン」と短く発音している。
今、膨大な数の長母音の単語をおおむね認識しているのは、一部の韓国語学者くらいのものである。
・このような、長母音が50年やそこらで崩壊する変容は実に驚くべきことである。
・学習にあたっては、長母音がかつて存在したという知識として知るに留め、基本的にすべて短母音で発音してよい。
・・・というわけです。
したがって、昔は「オードゥリー・ヘプボーン」と発音していた韓国人も、今は「オドゥリ・ヘプボン」になっているとみてよさそう。昨年~今年の韓国映画の大ヒット作「怪しい彼女」では主人公の女性が「オードゥリー」と名乗ったりしています。7月11日日本公開ということなので、そのあたりも聞いて確認してみます。(作品自体も大期待作ですが・・・。)
長母音がいくつも入る外国人の名前は、と考えてなんとなく思いついたのがタイトルに書いた「ジョージ・バーナード・ショー」でした。確認してみると、ハングル表記は「조지 버나드 쇼」と、韓国語学習者にはとくに驚くこともない綴りでした。カタカナ書きすると「ジョジ・ボナトゥ・ショ」。
人名以外では「マハーバーラタ」とか「サーターアンダーギー」なんてのが気になるところ。確かめてみたら前者はやはり「마하바라타」(マハバラタ)。後者は未確認ですが、おそらく「サタアンダギ」なんだろーうなー。
なお、「한국」(韓国)の「한」(ハン)も本来的には長母音なので、「ハングク」ではなく「ハーングク」が正しい!・・・って、皆さんご存知でしたか?
【野間先生、4月の「日本語とハングル」(文春新書)に続いて刊行。精力的に仕事をされています。】