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[韓国の漫画]「在日同胞 リ・ジョンエのソウル滞留記」を読む ①同胞・僑胞・僑民の違い

2015-04-13 07:03:41 | 韓国の漫画

 イム・ソヒ(文):ポリ(画)「재일동포 리정애의 서울 체류기(在日同胞 リ・ジョンエのソウル滞留記)」という漫画本。軽い気持ちで昨年12月ネット通販で購入した本です。在日韓国人が韓国に行って韓国語についての苦労とか、韓国人の在日に対する認識に戸惑って・・・というような(よくある)話かなとなんとなく思って読み始めたらぜ~んぜん大違い!
 すぐに読了しましたが、感想等の書き方がむずかしく、もう4ヵ月近くも経ってしまいました。
 まずは序文みたいなところからとりかかることにします。
 この本のタイトル中の「동포(トンポ.同胞)」という言葉と、「리(リ.李)」という名前についてです。

 最初少し読み始めて、ふと思ったことその1がこの「同胞」という言葉でした。私ヌルボの既存の知識では、在日韓国人のことを韓国の人は「교포(キョッポ.僑胞)」とよび、北朝鮮では「トンポ」とよぶということです。
 もう1つが、「李」の発音&表記。金さんに次いで2番目に多い姓ですが、ふつう韓国では「이(イ)」で、北朝鮮では「리(リ)」です。しかしちょっと前に韓国でも「리(リ)」が公的に認められるようになりました。
 いずれにしろ、「동포」といい「리」といい、北朝鮮・朝鮮総聯を思わせます。実際それで間違いなかったのですが、一応「同胞」と「僑胞」の違い等について確認のためネット上で日韓のいくつかの記事を見てみたところ、私ヌルボのこれまでの思い込みが間違っていたことを知りました。
 まず読んだのが<fwapy바람꽃風ノ花>という在日4世の方のブログ記事。(→コチラ。)
 要点は以下の通りです。
・1988年盧泰愚大統領は「これからは在日を「同胞」と呼びましょう」と語った。「僑胞」とは「韓国で生まれ国外に出ていつか本国に帰る人」のことであり、在日は「日本で生まれ、日本で骨を埋める人」というのがその理由。
・しかしその後も長く韓国政府・社会は、政治家・学者・マスコミそして在日の多くの人たちも「僑胞」という言葉を使い続けた。
・韓国では、在米韓国人は自分たちより上に、在日韓国人は下に見るという差別意識がある。したがって1970年以降日本に来たニューカマーたちは「あなたは僑胞ですか?」と問われると「見下げないでください。私は韓国人(or僑民・韓人)です」と否定する。
・2002年のワールドカップの頃から、韓国社会やマスコミはようやく在日のことを「同胞」と称し始め、以来マスコミではこの言葉が定着している。
・ところが、依然として一部のマスコミ・政治家・知識人・芸能人等で「僑胞」と言っている人がいる。そして民団の幹部の中にもスピーチの時に「われわれキョッポは・・・」と話す人が多く見られる。
・同胞と言う呼称が「総連」で長く使われてきたという背景はあるが、少なくとも当の在日社会の中では言葉の本来の意味を理解して、「僑胞」ではなく「同胞」という言葉を使うべきだと思う。


 次に辞書の説明文ではどのようになっているか? 日本の大辞林やウィキペディアの記述をまとめると次の通りです。
「僑胞」=自国外に住む同胞。中国語と朝鮮語で使われる。
「同胞」=兄弟姉妹のこと。「はらから」とも。転じて、自身と同じ国民や民族などのこと。


 韓国の標準国語大辞典では次のように区別しています。
「僑胞」=他の国に元から定着して、その国の国民として暮らしている同胞。
「同胞」=①同じ父母から生まれた兄弟姉妹。②同じ国または同じ民族の人を情愛をこめて指す言葉。
「僑民」=他の国に暮らしている同胞。元から定着している僑胞や、一時的に留まっている留学生、駐在員等をすべて指す。

 似ていますが、標準国語辞典で「僑胞」を「その国の国民として」と記しているのは疑問に思います。

 むしろ、<ハングル文化連帯>というサイトにあった「僑胞・同胞・僑民の差異」という記事(→コチラ)の方がむしろ明解に説明されています。
・よく区別されないまま使われることが多いが、「僑胞」は他の国に住んでいる自国民を意味する言葉で、「同胞」は住んでいるところに関係なく、同じ民族のすべてを併せた言葉である。
・しかし、こり2つの言葉は意味が重複したり、不明確な場合があるので、最近は「在外同胞」「在外国民」の2つの用語に統一して使用することになった。
「在外同胞」は、国籍に関係なく、外国に居住する韓民族すべてを指す。中国やロシアで生まれ、そこの国民として暮らしている韓民族や、韓国籍を放棄し、外国籍を取得した人もこれに該当する。
「在外国民」は、外国に滞留したり居住する人々の中で韓国籍を持っている人をいう。つまり、「在外国民」よりも「在外同胞」が包括的な意味になる。
・したがって、中国で生まれ、中国国籍を持つ同胞は「在中同胞」となり、韓国企業の中国支社に出向している人は、「在中国民」となる。
「僑民」という言葉は、外国に出て暮らしている韓国人を指す用語である。彼らは韓国籍を持っているので「在外国民」に分類される。また国籍を問わず外国に居住する韓民族でもあるから「在外同胞」でもある。
・なお、以前「海外同胞」という用語が用いられていたが、韓国は日本のような島国ではないので、「海外同胞」を「在外同胞」と直して使っている。かつて「海外公館」とよんでいたものも、今はすべて「在外公館」となっている。


 ・・・と、いろいろ見てみましたが、いくら行政やメディア、あるいは辞書等が「これが正しい用法」と示しても、一般社会がすべてそれに即従うわけでもありません。したがって今でも韓国サイトの質問掲示板ではこれらの語の違いについてのQ&Aが載っているし、在日社会でも上記のブログ記事のような現状があり、「民団新聞」の記事にも「僑胞」と「同胞」が混在しています。朝鮮総聯系ではずっと「同胞」なので、その点では私ヌルボの思い込みも丸っきり誤りというわけでもありませんが、韓国・民団系でも「同胞」という言葉をふつうに使うということは知りませんでした。

 これらの言葉の意味や使い方を見てみると、たとえばこの数十年の在日韓国朝鮮人と「本国」との関係や、国籍・民族といったものに対する考え方の変化が反映していることが窺われますね。

 最初に戻って・・・。
 この漫画は、つまり在日の中でも朝鮮総聯に属している、朝鮮籍のリ・ジョンエさんという女性が韓国に行った時のことを描いた月刊誌「民族21」の連載を単行本にまとめたものです。
 これだけでも「えっ、そういう人が韓国に行けるの!?」等々いろんな疑問が出てきそうですが、それらについてはまた続きで書きます。

 → 「在日同胞 リ・ジョンエのソウル滞留記」を読む ②


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