
野口孝行「脱北、逃避行」(新人物往来社)を2日間で読了しました。
4月発行ですが、6月22日に著者の野口さんが「毎日新聞」の<ひと>欄で紹介されていたのを読んで知った本です。
野口さんは北朝鮮難民救援基金というNPOのメンバー。
脱北して中国内に隠れ住む元・在日を無事国外に脱出させ、日本に帰すという任務に実際に関わった際の記録です。
読んでみて、驚いたこと、初めて知ったことがいろいろありました。
前述の「毎日」の記事で「無事帰国の姉妹からは詳しく書きすぎだと言われた」とありますが、ホントにここまで手の内を明かしていいの?・・・という感じです。中国内の協力者やシェルター(庇護を受ける家)のこと、国外脱出のルート等々・・・。
驚いた点を列挙します。
・野口孝行さん自身のこと。1971年生まれで30代。商社にサラリーマンとして勤めていたが、
「脱北者を救うために自分自身が具体的に行動を起こしたいという思いに駆られ、いつでも海外に出ていける日雇いの仕事(主に医薬品の販売促進)をするようになっていた」。
・・・この直情径行というか、軽挙妄動(?)というか、ご両親は当然反対。そりゃそうでしょうねー・・・。
自身の生活もあえて不安定な道を択んでまで、逮捕・投獄の危険、もしかしたら生命の危険さえあるかもしれない仕事をやろうというわけですから・・・。さらには、うまくいったからといってそれが大きな収入につながるわけでもなし。
しかし、こういう人がいるからこそ、危機的な状況から救われる人もいるということですね。
・野口さんは、中国語は多少の意思疎通は可能のようですが、朝鮮語はできないし、最初の救出任務にあたった2003年には上海も初めてで、ベトナム国境付近も同様でした。そういう人に重大な任務を任せる組織については少し疑問も感じましたが、それでも大丈夫(?)なほどいろんな機関・組織や、現地協力者等とのネットワークがしっかり組まれている、ということかもしれません。
・当の脱北者、あるいは現地協力者が、読んでいてハラハラするほど無警戒・無防備な場面がしばしばあります。ついその場には不自然な言葉(日本語や朝鮮語)で話をしていたり等々。
この本に登場する現地協力者の女性は、兄嫁が脱北者で、兄と兄嫁は<基金>の支援で日本に渡り暮らしているとのこと。ところがこの崔さんという女性、乗ったタクシーが高い料金をふっかけてきたと運転手に対して声を荒げてやりあったりもしています。日本円にすればほんの小銭程度なのに・・・。
・脱北者をめぐる悲劇の第一原因は北朝鮮政府にあることはいうまでもありませんが、この本を読んで痛感したのが中国公安の厳しさ。脱北者だけが対象というわけではないかもしれませんが、身分証やパスポートの提示を求められることはないか、不断の注意が必要なんですね。
中国の公安関係者はどんなつもりで職務を遂行しているんだろう、という疑問にかられますが、たぶん彼らのみならず、中国では人権についての認識が日本とはかなり違いがあるようです。
この本の後半は、ベトナムとの国境近くの町のホテルで公安に踏み込まれて拘束され、さらにその後243日間の看守所(未決囚収容所)で生活したの記録ですが、その中で取り調べに際して通訳を担当している中国人女性が、それまで中国の悪口を一度も言ったことのない野口さんに尋ねます。
「野口さんは、どうして中国がそんなに嫌いですか?」 野口さんが「どうして私が中国のことを嫌いだと思うのですか?」と聞き返すと、彼女は答えます。
「だって、中国に来て、法律を破って、そのことさえも認めないで公安に反抗しているじゃないですか? それはやっぱり中国が嫌いということでしょう。中国のどこがそんなに嫌いですか?」
・・・中国南部ではふつうに蛇飯をたべたり、看守所で野口さんを含む未決囚たちがやったように犬をツブして食ったり、その他こっそりと(?)サルを食ったりというような食文化や、生活文化の違いもいろいろ承知しておく必要があるわけですが。日本人にとっては常識的な思考回路もどこでも通用するものじゃないということも再認識しました。
・聞きしに勝る、と思ったのが「地獄の沙汰も金次第」という中国社会。北京駅ではなんと駅員自身がダフ屋をやってたりします。看守所内でも金さえ払えば冷たいビールも飲めるし、甚だしくは獄中生活を送るべき未決囚が所外で安楽な日々を過ごしていたり、ここらへんはよくわかりません。
・金といえば、この脱北者問題自体が多くの人と金を引き寄せる大きなネタになっているわけで、その実態も想像以上のものがあるようです。
これだけ多くの北朝鮮住民がいるとなると、脱出の手引きをするブローカーの他、人身売買の組織等もあるようだし・・・。また中国国外へのある脱出ルートが注目されるようになると(たとえばモンゴル・ルート)公安は当然取締りを強化するから別のルートを開拓しなければならず、すると人も金も移動していくということで、状況は常に流動している、という感じです。
・看守所内での中国人未決囚たちのようす等々、他にも興味深い記述はあるのですが、すでに長々と書き連ねましたので、最後に北朝鮮難民基金関係のサイトを紹介して終わりにしておきます。
→北朝鮮難民救援基金HP
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます