ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国語で「彼女」のことを何と言うか?

2013-05-11 23:49:36 | 韓国語あれこれ
 半世紀以上(!?)前の話。中学校で初めて英語を教わった頃、独特の日本語の訳文にとまどったのは私ヌルボだけではなかったはずです。
 そのしょっぱなの例がheとsheの訳し方。そんなの、フツーに「彼」と「彼女」でしょ、と言われるでしょうが、その「彼」とか「彼女」という言葉が当時の中学生にとっては全然日常的に使われる言葉ではなかったから、なんかこっぱずかしいという感じで、口にするには抵抗感がありました。(今の中学生はどうなんでしょうか?)
 高校の英語の授業で、ある級友がある英訳問題の解答を黒板に書いた時、heを「うちの人」と訳していたのは「なるほど」と思い、今も記憶に残っています。その「he」はたしかに文中では語り手の女性にとって夫だったからです。

 この「彼」や「彼女」という日本語は昔からある言葉ではなく、明治期に英語からの翻訳の際に英語で言う「he」や「she」を翻訳するために用いられるようになったものです。この言葉を聞いたり話したりする時に感じるぎこちなさは、むしろ当然でしょう。近年は、以前に比べるとずいぶん自然に用いられるようにはなってきましたが・・・。

 では、韓国語では「彼」や「彼女」のことを何というか?
辞書によると、「彼」には「그」・「그 사람」・「그 남자」が、「彼女」には「그녀」「그 여자」という訳語が載っていました。

 そういえば、一昔ほど前大ヒットしたチョン・ジヒョン主演の映画「猟奇的な彼女」の原題は「엽기적인 그녀」でした。同じく「僕の彼女を紹介します」は「내 여자친구를 소개합니다」で、「그녀」ではなく「여자친구(女友だち)」。

 で、彼女=「그녀」と思い込んでいたところ、その後ポツポツと韓国の新聞や小説を読むようになって「あれ?」と思ったのは、女性の場合にも「그녀」ではなく「그」と書かれているではないですか。
 ・・・というのが修正その1。

 そしてさらにその後。韓国語の先生(ネイティブの女性)と話をしていて、「彼は」のつもりで「그는」と言ったら、「그 사람은」と言うようにと直されました。
 つまり、小説等の書き方と、日常話す時とは違うということです。
 ・・・というのが修正その2。

 この「그녀」という言葉について韓国語サイトを探したら、昨年9月の「中央日報」の[우리말 바루기(韓国語を正す)]の記事として、まさに「‘그녀’는 아름답지 않다(‘그녀’は美しくない)」という見出しのついた一文がありました。(→コチラ。)
 これには、‘그녀’は元は日本語の「彼女」で、それは(上述のように)日本が西洋小説のheやsheを訳出するにあたって作り出された言葉であること、また1920年代日本に留学していた作家金東仁が韓国語にもshe に相当する語がないことを残念に思って「彼女」にならって‘그녀’という語を用い、それが50年代になって一般的に用いられるようになった、と説明されています。
 しかし、韓国語では元来男女を問わず「彼」も「彼女」も「그」だったと、この記事は指摘しています。
 また、この記事には、少し前に野党のある政治家がツイッターで女性大統領候補(朴槿恵)のことを「그년(そのアマ)」と書いて問題になったことも記されています。するとその政治家は、「그년」は「그녀는」の入力ミスだったともっともらしく言い逃れしたとか・・・。このような「그녀」は再考すべきだとも述べています。

 「彼」や「彼女」をどう言うか、考えてみればそんなに簡単でもなさそうです。日本語でも場合によっては問題がありそう。初級のテキストにはどう書いてあるのかな?

※韓国語と直接関係はありませんが、日本語教師の方の記事で次のようなものがありました。
   He is a student of・・・・いう問題を出したところ、一人の学生が「さんは・・・」という訳をしたのに苦笑したものでした。


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8 コメント

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彼女 (ソウル一市民)
2013-05-12 21:18:20
 上にご紹介されている記事、如何にも感情的で偏った記事の多い中央日報らしい論調ですね。
 言語をこうやってナショナリズムと結び付けること=「国語」という思想、自体を私は個人的には好みませんが(そもそも言語を美しい、美しくないといった主観的価値観で云々すること自体が余りに情緒的に過ぎます)、現代韓国語の変遷史の一側面(というより重要な起動力?)として、如何にして日本語(の影響)を克服するか、あるいは韓国固有の「国語」をどうやって浸透させていくかという、そもそもナショナリスティックな思想から出発している以上(漢字語の圧倒的な影響下にある韓国語において、むろんこれはほとんど絶望的な試みでしかないのですが)、致し方ないことかも知れません。

 記事中の「僕の彼女を紹介します」での「ヨジャ・チング」の訳語である「彼女」は、現代日本語において恋人(女性)を意味する「彼女」(girlfriend)であって、第三者を意味する「彼女」(she)とはそもそも違うため、今記事の主旨からずれている例かと思いますが、いかがでしょうか。

 明治以前には「彼」は「彼女」をも意味していたはずですし、言文一致体を模索していた時期の小説にはそうした「彼」=「彼女」という例もまだ残っていたはずです。
 日本語を参考にしたとは言え、中央日報の記事中でも色々な「彼女」の訳語が模索されたことが紹介されており、時の流れによって淘汰された結果「クニョ」が残ったとも言え、やはりこれが日本起源だから美しくないと決め付けることこそ、歴史というものを軽視して、現在から過去を評価・判断する極めて恣意的・情緒的な「感想」に過ぎないように思えてなりません。

 などと言ってみたところで、所詮他国の問題であり、とりわけ日本人が何を言おうと妄言でしかないのでしょうけれども。
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「正しい」言葉、「美しい」言葉論議 (ヌルボ)
2013-05-12 22:22:50
「正しい」言葉論議には、語源的な正しさ、文法的な正しさ、固有語尊重等々の傾向が日韓を問わずあるようです。しかし、それに合致していないとして、なぜ非難されなければならないのか、という根本的な(?)反論に遭うと、結局は感情論にゆきつくしかなさそうです。
それに韓国の場合はたしかに言語ナショナリズムの臭いが芬々と漂っているし・・・。

ご承知のように、韓国ではこれまで弁当→トシラク、たくあん→タンムジのように日本語由来の言葉を韓国語におきかえたり、カラオケをわざわざノレパンにしたり、あるいはバス停留所→ポスタヌンゴのように漢字語を固有語にかえたりしてましたが、この頃はどうなんでしょうね? ハングル信仰はあいかわらずのようですが・・・。

「明治以前には「彼」は「彼女」をも意味していたはず」という点について、そういえば森鷗外の「舞姫」ではエリスのことが「彼女」ではなく「彼」と書かれていましたね。

「僕の彼女を紹介します」についてはご指摘の通りで、「猟奇的な彼女」のついでに同じチョン・ジヒョンなので思いついたのを書いたまでです。
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言い換え問題 (ソウル一市民)
2013-05-13 07:47:58
 コメント返信、ありがとうございました。
 弁当やたくわんは若い世代ではもう死語かも知れませんし、カラオケもノレバンが浸透していそうです。バス停留所(韓国語では「停留場」)は今もバス停留場と言っていますし、地下鉄駅も「停車場」ですね。
 日本語起源の言葉を固有語に言い換えることは理解できるとして、例えば今や国際用語になっている柔道の「一本」や「技あり」なども韓国語に言い換えているのはどうかと思います。
 「有効」や「効果」はまだ韓国語読みだから許容範囲ですが、「技あり」(チョルバン)、「一本」(ハンパン)などは明らかに日本語忌避のためで、昨年のオリンピックの際にも問題になったように、スポーツに政治思想を持ち込んでいると言っていいかと思います。
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なるほど・・・ (ヌルボ)
2013-05-13 10:59:59
たいていの韓国語テキストは「停車場」でなく「地下鉄駅」になっているように思われます。外国人向けの日本語テキストにも同じような事例はありそうですが・・・。
「一本」や「技あり」の韓国語は知りませんでした。
昨年だったか、囲碁の世界化をめぐって、日本語の用語に対して近年韓国語の攻勢が目立ち、せめぎ合っているというような内容の新聞記事を読みました。ほかの分野でもありそうですね。
いろいろ教えてくださってありがとうございました。
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停車場 (ソウル一市民)
2013-05-13 19:57:42
 韓国語上級のヌルボさんに「お教え」するなどとんでもないことです。
 たまたまこの前韓国語の教師と話していたとき、「ここからふた駅で乗り換えて」などと言う際に駅を数えるのに「停車場」(チョンゴジャン」を使うと習ったので早速書いてみました。地下鉄駅そのものを指す場合には、「駅」とか「地下鉄駅」なのだと思いますが。
 
 柔道は昨年オリンピックを見ていて気付きました。囲碁だけでなく、そのうち柔道も今の日本柔道の弱体ぶりを見ていると、韓国式の用語になったりしかねませんね。領土問題や海の呼称問題、歴史問題などにしても欧米等海外でも積極的に広報を行い、自国の考えを広めようとする「世界化」とか「国際化」に対する韓国(人)の執念やエネルギーは凄まじいですので。
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例に事欠かない (ヌルボ)
2013-05-13 20:45:03
キムチをはじめとする韓食世界化プロジェクトにもずいぶん入れ込んでますねー。

ウィキの<韓国起源論>のネタも増えるばかりですが、→コチラの記事
http://nandakorea.sakura.ne.jp/html/kigen.html
で紹介されていた
「刺し身を「hoe」と表記、外国人理解できず」という中央日報の記事
http://japanese.joins.com/article/034/26034.html?sectcode=&servcode=
は、おもしろく読みました。
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Unknown (ask)
2013-05-15 18:17:17
それぞれの言語に特有の語感や単語の響きによる「すわりの悪い」言葉というのもあるのでしょうね。
それに、日本語でも、もともと固有語か漢字語で表現できるものなのに横文字を使われると違和感があるし、韓国における言葉の言い替えの動きにもいくらか共感するところはあります。
が、やりすぎの感もありますね…
日本語と韓国語は世界的に見てもせっかく近縁(たぶん)の言語なんだし、あまり純化ばかりにこだわられるとちょっとさびしい気分にもなります。

韓国語未熟者の勝手な意見ですが、、、韓国人の名前を見ただけでは男性なのか女性なのかいまだに判断つかないことが多いので、「ク」と「クニョ」を区別しないで書いてある文章を読むと、「ク」の人はずっと男性だと思って読んでいたのに突然その人の夫が登場したりして、「あれこの人って女性だったのか?!」ということによくなります…
小説なんかで対話の場面だと余計にこんがらかりますね。
「ク」がどっちなのか、いま話しているのは女性のほう?男性のほう?となって、最初から読み返したり。
(日本語に比べて男性ことばと女性ことばの違いが少ないのも理由かもしれないですが。)
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韓国人の名前の性別 (ヌルボ)
2013-05-16 16:35:33
私も「ク」が男性なのか女性なのか、なかなかわからないことが何度もありました。
韓国人の名前では、一目で性別がわかるものももちろんたくさんありますが、区別がつかないものも多いですね。

朴正煕も、最左翼の女性政治家・李正姫も名のスペルは同じだし、「英」や「栄」で終わる名前は女性だろうなと思ったら、現代財閥の鄭周永の「永」も同じスペルの「ヨン」だし、女優ハ・ジウォン(河智媛)の「媛」と男優チャ・スンウォン(車勝元)の「元」も同じ・・・。うーむ、これはキリがなさそうです。

とりあえずは、まず確実なものを固めていって、あとは出たとこ勝負で判断するしかないようですね。


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