ここしばらくタカシのことを記録していないような気がするので,残暑挨拶代わりにタカシの夏休みの一断面を少々述べさせていただく。
先週の日曜日,仕事を一段落させた父が二階の仕事場でぼんやりしていると,タカシが突然ドアを開けて入ってきて,「ねぇ,オトーサン,どっかお散歩行かない?」などと誘いをかけてきた。ほう,これは珍しいこともあるものだ。多分,彼のお散歩の「めあて」はコンビニ(お菓子)かドラッグストア(ガチャポン)あたりなのかも知れないが,その心意気は一応評価に値しよう。で,ここはひとつ裏をかいてやろうかと目論んで,それじゃあ,魚釣りにでも行こうか? と返す言葉で提案した。すると意外なことに,タカシの方も乗り気になったようで「うん,行こう,行こう!」と即座に賛同した。ついでにアキラにも声をかけてみると,最初は外に出掛けるのを執拗に嫌がっていたが,タカシと父が家を出る間際になってあわてて後を追いかけてきた。そんなわけで,ひょんなことから父子3人で川へ洗濯に,じゃなかった,川へ魚釣りに行くことになった次第である。
とは申しても,夕食前のほんの30~40分程度の時間である。行き先はウチのすぐ近くを流れる葛葉川(徒歩約3分)くらいしか洗濯もとい選択の余地はない。タカシには釣り竿,アキラには空のバケツを持たせ,オトウは「網カゴ」(後述)と魚の餌とを携えた。餌はとりあえず仕事場にストックしてあったコイ釣り用の「練り餌」で済ませることにした(現地で地面を掘っくり返してミミズ探しをしている時間もないと思われたので)。
表通りを横切り,段丘斜面の坂を下って葛葉川の河原に到着すると,その付近一帯で一番よい釣りポイント(蛇行部のM型淵)には既に先客が陣取っていた。いずれも東南アジア系とおぼしき若い男5~6名である。恐らくは「じゃぱゆき君」たちなのだろう。仕事のない日曜日,遊びに出掛けたくともオカネはないし,仕方ない,近所の川で釣りでもして暇をつぶそうか,といったところだろうか。ま,見ようによっては極めて健全なる発想である。
しかしながら我ら凸凹3人組としては,彼らエトランゼ集団の中に入り込んで一緒に釣りをするのは少々はばかられたので,次善策として約30mほど下流に移動し,コンクリートの落差工が崩れて少々深場を形成している場所(S型淵)を釣りポイントに決めた。
目を凝らして付近の流れの中をのぞき込むと,それでもアブラハヤの未成魚が5~6尾ほどチョロチョロ泳いでいるのが見える。お,これはいけそうだ。さっそく釣針に餌を付けてタカシに手渡す。ぎこちない仕草で竿を投げ水面に釣糸を垂れると,すぐに小魚たちがツンツンと餌に食らいついてくる。その光景はまるで,いつもオナカをすかせてヒモジイ状態にある発展途上国の子供らが,突然目の前に御馳走を差し出されて歓喜雀躍,夢中でそれにむしゃぶりついている,といった感じである。何ともイジマシイ,というか,イジラシイ(ウチの子供たちと似たようなものか)。
ただし,アブラハヤの子供らにとっては幸いなことに,タカシらにとっては残念なことに,魚体がかなり小さいのと練り餌がすぐに崩れてしまうため,なかなか釣針に魚が引っかかってくれない。「オトーサン,ぜんぜん釣れないよー」 弱音を吐きながらも何度も何度もあきらめずにチャレンジするタカシであるが,すぐに餌がなくなってしまい,努力はなかなか報われない。そのうちタカシの眉間にシワが寄り始めた(ムカマークの発現)。そこで父はとっておきの「網カゴ」をやおら取り出し,中に餌を入れて水際の淀んだ深場に沈める。これは別名「お魚キラー」と称される小型定置漁具で,父が常日頃河川や湖沼の魚類調査で使用している,いわば商売道具である。まぁ,10分後を楽しみにしていなさい,タカシくん!
ところで,30mほど上流で和気藹々と釣りをしているフィリピン人(と,とりあえず推定しておくが)集団はといえば,当方の動向がそれなりに気になっている様子で,ときおりこちらの方をチラチラ眺めては仲間同士で何やら話している。そのうち,とうとう我慢が出来なくなったものとみえ,一人の男が釣り竿を持ってゆっくりと近づいてきた。一応は,下流方面に釣りポイントを少しずつ変えながら移動している,といった感じで,それでも私共のすぐ脇を通り過ぎるとき,こちらのバケツの中をしっかり覗き込んだりして(その時点では中は空っぽでしたけどネ)。それから再び下流方面へと進み,ウチらから少し離れた所で立ち止まると,遠方の仲間に向かって「パラパラパラパラ」とか何とかタガログ語(推定)で状況報告らしきをしていた。仲間たちはそれに答えるようにニコニコ笑っていた。
さらにその約5分後,もう一人のフィリピン人(推定)が,やはり釣り竿を片手にニコニコしながら近づいてきた。そして,タカシとアキラの前で立ち止まると,釣針にかかっている魚(体長約10cmのギンブナ)をはずし,子供らに向かって差し出した。やはり「パラパラパラパラ」とか何とか言いながら。そして再びニコニコしながら立ち去っていった。その突然の異邦人の来訪および彼からのプレゼントに対して,タカシもアキラもそろって為す術を知らず,アリガトウの一言すら発することも出来ず,ただただ目をパチクリさせながらピチピチ跳ねる魚を見つめるばかりであった。いや,国際交流というのもこれでなかなかムズカシイものである。
しかしながら,事の一部始終をやや離れた場所で傍観していた父からすると,それはごく自然で,かつ友好的な交流であったように思われる。ルーラルな,牧歌的な交流といってもいい。あるいは,アジア的生産様式,じゃなかった「アジア的共同幻想」という風にも敷衍できるかも知れない。いうなればコイ科魚類の取り持つ縁ってヤツですね。いずれにしろ,シアワセな子供たちである。(唯一,当のフィリピン人(推定)が父に対して終始目をそらすような素振りをしていたのが残念といえば残念であったけれど)。
実はこの後さらにいくつかの特筆すべき「ドラマ」が展開されたりもしたのだが,あんまり冗長になりすぎてもHPのセクションに馴染まないのでここらで止めておく。続きはいずれまた改めて,気の向くままに。なお最後にこの日の成果について書き留めておくと,釣り竿の方では結局何も釣れなかった。しかし「網カゴ」ではアブラハヤが20尾近くも採れた。どうです,タカシくん!
とまれ,こうしてタカシとアキラの夏休みは終わりをつげた。そしてその翌々日から,父は約2週間に及ぶ長期出張,別名「魚採りの旅」に出掛けたのである(やれやれ!)
先週の日曜日,仕事を一段落させた父が二階の仕事場でぼんやりしていると,タカシが突然ドアを開けて入ってきて,「ねぇ,オトーサン,どっかお散歩行かない?」などと誘いをかけてきた。ほう,これは珍しいこともあるものだ。多分,彼のお散歩の「めあて」はコンビニ(お菓子)かドラッグストア(ガチャポン)あたりなのかも知れないが,その心意気は一応評価に値しよう。で,ここはひとつ裏をかいてやろうかと目論んで,それじゃあ,魚釣りにでも行こうか? と返す言葉で提案した。すると意外なことに,タカシの方も乗り気になったようで「うん,行こう,行こう!」と即座に賛同した。ついでにアキラにも声をかけてみると,最初は外に出掛けるのを執拗に嫌がっていたが,タカシと父が家を出る間際になってあわてて後を追いかけてきた。そんなわけで,ひょんなことから父子3人で川へ洗濯に,じゃなかった,川へ魚釣りに行くことになった次第である。
とは申しても,夕食前のほんの30~40分程度の時間である。行き先はウチのすぐ近くを流れる葛葉川(徒歩約3分)くらいしか洗濯もとい選択の余地はない。タカシには釣り竿,アキラには空のバケツを持たせ,オトウは「網カゴ」(後述)と魚の餌とを携えた。餌はとりあえず仕事場にストックしてあったコイ釣り用の「練り餌」で済ませることにした(現地で地面を掘っくり返してミミズ探しをしている時間もないと思われたので)。
表通りを横切り,段丘斜面の坂を下って葛葉川の河原に到着すると,その付近一帯で一番よい釣りポイント(蛇行部のM型淵)には既に先客が陣取っていた。いずれも東南アジア系とおぼしき若い男5~6名である。恐らくは「じゃぱゆき君」たちなのだろう。仕事のない日曜日,遊びに出掛けたくともオカネはないし,仕方ない,近所の川で釣りでもして暇をつぶそうか,といったところだろうか。ま,見ようによっては極めて健全なる発想である。
しかしながら我ら凸凹3人組としては,彼らエトランゼ集団の中に入り込んで一緒に釣りをするのは少々はばかられたので,次善策として約30mほど下流に移動し,コンクリートの落差工が崩れて少々深場を形成している場所(S型淵)を釣りポイントに決めた。
目を凝らして付近の流れの中をのぞき込むと,それでもアブラハヤの未成魚が5~6尾ほどチョロチョロ泳いでいるのが見える。お,これはいけそうだ。さっそく釣針に餌を付けてタカシに手渡す。ぎこちない仕草で竿を投げ水面に釣糸を垂れると,すぐに小魚たちがツンツンと餌に食らいついてくる。その光景はまるで,いつもオナカをすかせてヒモジイ状態にある発展途上国の子供らが,突然目の前に御馳走を差し出されて歓喜雀躍,夢中でそれにむしゃぶりついている,といった感じである。何ともイジマシイ,というか,イジラシイ(ウチの子供たちと似たようなものか)。
ただし,アブラハヤの子供らにとっては幸いなことに,タカシらにとっては残念なことに,魚体がかなり小さいのと練り餌がすぐに崩れてしまうため,なかなか釣針に魚が引っかかってくれない。「オトーサン,ぜんぜん釣れないよー」 弱音を吐きながらも何度も何度もあきらめずにチャレンジするタカシであるが,すぐに餌がなくなってしまい,努力はなかなか報われない。そのうちタカシの眉間にシワが寄り始めた(ムカマークの発現)。そこで父はとっておきの「網カゴ」をやおら取り出し,中に餌を入れて水際の淀んだ深場に沈める。これは別名「お魚キラー」と称される小型定置漁具で,父が常日頃河川や湖沼の魚類調査で使用している,いわば商売道具である。まぁ,10分後を楽しみにしていなさい,タカシくん!
ところで,30mほど上流で和気藹々と釣りをしているフィリピン人(と,とりあえず推定しておくが)集団はといえば,当方の動向がそれなりに気になっている様子で,ときおりこちらの方をチラチラ眺めては仲間同士で何やら話している。そのうち,とうとう我慢が出来なくなったものとみえ,一人の男が釣り竿を持ってゆっくりと近づいてきた。一応は,下流方面に釣りポイントを少しずつ変えながら移動している,といった感じで,それでも私共のすぐ脇を通り過ぎるとき,こちらのバケツの中をしっかり覗き込んだりして(その時点では中は空っぽでしたけどネ)。それから再び下流方面へと進み,ウチらから少し離れた所で立ち止まると,遠方の仲間に向かって「パラパラパラパラ」とか何とかタガログ語(推定)で状況報告らしきをしていた。仲間たちはそれに答えるようにニコニコ笑っていた。
さらにその約5分後,もう一人のフィリピン人(推定)が,やはり釣り竿を片手にニコニコしながら近づいてきた。そして,タカシとアキラの前で立ち止まると,釣針にかかっている魚(体長約10cmのギンブナ)をはずし,子供らに向かって差し出した。やはり「パラパラパラパラ」とか何とか言いながら。そして再びニコニコしながら立ち去っていった。その突然の異邦人の来訪および彼からのプレゼントに対して,タカシもアキラもそろって為す術を知らず,アリガトウの一言すら発することも出来ず,ただただ目をパチクリさせながらピチピチ跳ねる魚を見つめるばかりであった。いや,国際交流というのもこれでなかなかムズカシイものである。
しかしながら,事の一部始終をやや離れた場所で傍観していた父からすると,それはごく自然で,かつ友好的な交流であったように思われる。ルーラルな,牧歌的な交流といってもいい。あるいは,アジア的生産様式,じゃなかった「アジア的共同幻想」という風にも敷衍できるかも知れない。いうなればコイ科魚類の取り持つ縁ってヤツですね。いずれにしろ,シアワセな子供たちである。(唯一,当のフィリピン人(推定)が父に対して終始目をそらすような素振りをしていたのが残念といえば残念であったけれど)。
実はこの後さらにいくつかの特筆すべき「ドラマ」が展開されたりもしたのだが,あんまり冗長になりすぎてもHPのセクションに馴染まないのでここらで止めておく。続きはいずれまた改めて,気の向くままに。なお最後にこの日の成果について書き留めておくと,釣り竿の方では結局何も釣れなかった。しかし「網カゴ」ではアブラハヤが20尾近くも採れた。どうです,タカシくん!
とまれ,こうしてタカシとアキラの夏休みは終わりをつげた。そしてその翌々日から,父は約2週間に及ぶ長期出張,別名「魚採りの旅」に出掛けたのである(やれやれ!)