中学生になってすぐ,タカシは卓球部に入った。別にそれ以前に卓球のキャリアやタシナミがあったというわけではなく,いやそれどころか温泉ピンポンの経験すらなく,まったく第一歩からのスタートである。もともと当人は文化部よりも運動部の方に入る心づもりでいたらしく,入学前後から個々の運動部に対する適性検討ならびに自己評価をあれこれ重ね続けた挙げ句,卓球部という結論が導かれたそうな。実際には単に消去法的な帰納らしいが,ま,それもまた良しとしよう。
それにしても,体育会系少年の一日は忙しい。朝は「朝練」があるため5時45分に起き,6時40分には家を出る。授業が終わると「午後練」があり,夕方,家に帰るのは午後7時近い。加えて週に三日は夜の学習塾通い。塾の遅い日は夜9時過ぎに家に戻る。要するに「バタンキューの日々」の繰り返しなわけで,それでも休日になれば休日で友達とスポーツ用品店に買い物に行ったり,市立体育館に卓球をしに出掛けたり,あるいは気分を変えてボーリング場に行ったりと,いやまったく,中学生というものは実に多忙である。多忙すぎて身体を壊しはしないかと傍目にも心配になるくらいだ。けれど当のタカシ自身は,毎日毎日とても楽しげにそれらの多忙を雀躍とこなしている。さすがに時々は,あー疲れたー!,と深いタメ息をつく様子が垣間見られることもないではないが,それでも,以前に比べるとその目付きは数段生き生きしているように見える。
昨今のローティーン少年少女たちにおけるかくのごとき過密スケジュール。その多くは,少なからず矛盾を孕んだ現行の学校制度や,歪んだ教育システムを反映した市場原理や,不合理に満ちた公教育のカリキュラムなどなどに由来することは間違いない。けれどそのように虐げられた教育環境のなかで,大部分の子供らは果敢にも健気にも能うる限りの成長を続けようと日々懸命に生き続けているのだ。その様はまるで,揺籃の眠りから目覚め卵から孵化した脆弱な淡水魚が,前期仔魚,後期仔魚,稚魚,未成魚と段階的に生長してゆくさまを見るかの如きである。生長というよりむしろ進化といった方が適切かも知れない。ステップ・バイ・ステップ。クリエイティヴ・エヴォリューション。まったく,親が油断しているとコドモはいつのまにか親の視界から遠ざかってゆく。今の世界をあっさりと乗り越えてゆく。彼らに対して何の助言も助力も出来ないオロカでオイボレた無力な父ではあるけれども,そのような子供の「勢い」を制御したり頭を押さえつけたりすることだけは断じてすまいと改めて自戒するのである。
最後にひとつだけ小声で報告しておくと,タカシは新一年生のなかで最も背が低いとのことだ。140人中の一番。M君よりも1mm抜かれて,とうとう一番前になってしまったという。そのチビッコが,毎日毎日,重いリュックを背負って,片道40分の道のりを,朝早く,夜遅く,登下校する。華奢な双肩に背負うリュックの重量は,少なくとも10kgは下らないと思う。本当に,ゾッとするほど重たいんだ,これが(別にタクワン石が入っているわけじゃなかろうに)。
神よ,タカシに幾ばくかのパワーを与え給え!
それにしても,体育会系少年の一日は忙しい。朝は「朝練」があるため5時45分に起き,6時40分には家を出る。授業が終わると「午後練」があり,夕方,家に帰るのは午後7時近い。加えて週に三日は夜の学習塾通い。塾の遅い日は夜9時過ぎに家に戻る。要するに「バタンキューの日々」の繰り返しなわけで,それでも休日になれば休日で友達とスポーツ用品店に買い物に行ったり,市立体育館に卓球をしに出掛けたり,あるいは気分を変えてボーリング場に行ったりと,いやまったく,中学生というものは実に多忙である。多忙すぎて身体を壊しはしないかと傍目にも心配になるくらいだ。けれど当のタカシ自身は,毎日毎日とても楽しげにそれらの多忙を雀躍とこなしている。さすがに時々は,あー疲れたー!,と深いタメ息をつく様子が垣間見られることもないではないが,それでも,以前に比べるとその目付きは数段生き生きしているように見える。
昨今のローティーン少年少女たちにおけるかくのごとき過密スケジュール。その多くは,少なからず矛盾を孕んだ現行の学校制度や,歪んだ教育システムを反映した市場原理や,不合理に満ちた公教育のカリキュラムなどなどに由来することは間違いない。けれどそのように虐げられた教育環境のなかで,大部分の子供らは果敢にも健気にも能うる限りの成長を続けようと日々懸命に生き続けているのだ。その様はまるで,揺籃の眠りから目覚め卵から孵化した脆弱な淡水魚が,前期仔魚,後期仔魚,稚魚,未成魚と段階的に生長してゆくさまを見るかの如きである。生長というよりむしろ進化といった方が適切かも知れない。ステップ・バイ・ステップ。クリエイティヴ・エヴォリューション。まったく,親が油断しているとコドモはいつのまにか親の視界から遠ざかってゆく。今の世界をあっさりと乗り越えてゆく。彼らに対して何の助言も助力も出来ないオロカでオイボレた無力な父ではあるけれども,そのような子供の「勢い」を制御したり頭を押さえつけたりすることだけは断じてすまいと改めて自戒するのである。
最後にひとつだけ小声で報告しておくと,タカシは新一年生のなかで最も背が低いとのことだ。140人中の一番。M君よりも1mm抜かれて,とうとう一番前になってしまったという。そのチビッコが,毎日毎日,重いリュックを背負って,片道40分の道のりを,朝早く,夜遅く,登下校する。華奢な双肩に背負うリュックの重量は,少なくとも10kgは下らないと思う。本当に,ゾッとするほど重たいんだ,これが(別にタクワン石が入っているわけじゃなかろうに)。
神よ,タカシに幾ばくかのパワーを与え給え!