「世界のカリカチュア」としてのTDL&TDS

2004年06月25日 | タカシ

 先週末,家族で東京ディズニーシーに出掛けた。正確にいうと「土曜日=ディズニーシー」,「日曜日=ディズニーランド」という2デイ・パスポートの享楽三昧,なおかつ宿泊は「ホテル・ミラコスタ」ときた。毎年6月に催される恒例の小旅行とはいえ,我が家の子供らはつくづくシアワセ者である(シアワセの定義についてはここでは省略させていただくが)。

 自宅から徒歩45秒の至近距離にあるバス停から午前8時4分発の路線バスに乗り,新宿経由で小田急線とJRバスを乗り継いで約3時間の行程,11時少し前にディズニーシーの正門前にて我ら家族4人はバスを降ろされた。そしてそこから怒濤の2日間が始まるのである。天気予報によれば,台風6号が遥か南方海上を日本列島に向かって徐々に北上を続けており,その影響もあってか風がかなり強かったが,それでも梅雨時とは思えないほど大変に良く晴れた空模様で,気温が高いわりには爽やかな日和であった。この分なら何とか日曜日の昼過ぎくらいまでは好天が持続しそうだ。さぁ,バリバリ楽しむぞ~,とばかり各自思い思いの行動に移るべく分散した。

 タカシは何にもまして過激アクション系のアトラクションに目がない。ディズニーシーでいえば「センター・オブ・ジ・アース」,「ストーム・ライダー」,「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」など,ディズニーランドでは「スペース・マウンテン」,「ビッグサンダー・マウンテン」などである。待ち時間が1時間を超えようが何するものぞ。思い込んだら試練の命。とにかく是が非でも一度は乗らずんば無事に帰れまい。と,その意気込みたるや善し。せっかくの機会なんだから思いっ切り楽しまなくちゃネ。また,母も基本的にはタカシとよく似た性格ゆえ,大体は二人一緒に連れだって園内を右往左往,それらのめくるめくアミューズメントに親子でハチャハチャと興じるのであった。

 一方,アキラときたら,アミューズメント・パークのアトラクションに関してはごくごく奥手で,「メリー・ゴーラウンド」や「グルグル・エアプレーン」や「お子様コースター」などの低レベル遊具で未だ満足している小学4年生である。これだったらわざわざディズニーまで来なくても小田原城内のミニ遊園地あたりで十分なわけで(あー,モッタイナイ)。要するに,アキラの場合,自分の意のままにならない遊具は本能的に拒絶するのであって(この点は父に少々似ている),そのものに対峙したとたん,ハードボイルド風紋切型の言い方をすれば「我知らず踵を返す」といった態度を示すのである。理念・主義・理屈ないし屁理屈はそれに続いて発生するわけで,決してその逆ではない。ま,単に「砂場の駄々っ子」状態を相変わらず引きずっているに過ぎないのだが。もっとも,最後の最後には周囲に強く促されてランドの「ビッグサンダー・マウンテン」に乗り,その結果,意外にも非常に満足した様子だった。これが彼にとってのオトナへの旅立ち《Le premier pas》(Claude-Michel Shonberg)になればいいんだけどなぁ。

 なお,残るもう一人,父については,しばらく以前から頸椎に多少の障害を抱えている身ゆえ,遊園地の過激アトラクションなどは近年では最も苦手のジャンルとなっている。従って,当日はもっぱら広大な園内をノンビリ・ブラブラ歩き回ることに終始した。しかし,これがまたなかなかに面白い。特に,ディズニーシーの方は自身初めて来訪した場所であり,かつ,事前に予備知識を全く仕入れてこなかったこともあって,何というか,異次元の不思議な魅惑に満ちあふれた未知の迷宮を夢見心地で彷徨する,といった気分であった。それも,基本的には不安や危険や恐怖や逼迫とは全く無縁の,ある意味で神の御加護を受けたような,あるいは天下御免の印籠を懐にしたためたところの御老体,無責任な異邦人のポジションに位置しているわけだから,それこそ興味のおもむくまま,好き勝手に気ままに歩き続けた次第である。

 ところで,賑やかさに満ち溢れた園内をそんな風にグルグル歩き回っていると,時間が経つにつれて,当初は極めて多様性に富んだ迷宮のように思われていた複雑で錯綜した異次元的世界が,実は意外とセコセコした,きっちりと計算ずくの上で組み立てられた予定調和的な疑似空間であると徐々に理解されてくる(まぁ,トータルすれば園内全体をを3周くらいは歩き回っているんだから,そりゃアタリマエの話ですが)。要は,アングロサクソンの視点から構築された「世界のミニチュア」,というよりむしろ「世界のカリカチュア」といった方がより適当か,贅を尽くし趣向を凝らした洋風箱庭,そして我らはそこに設えられたお人形一体に過ぎないわけだ。ただし,それが「帝国主義の邪悪な策謀」などとは決して申しますまい。ミッキーマウスという記号,それは「楽しさ」を解き明かすキーワードである。アカンボもヤクザも等しく無条件で楽しい気分を味わう。なかなか素敵なことではないか。もっともそんな中,イスラム風の集会所のような風通しの良いレストラン(提供:ハウス食品)の片隅で,父はひとり淋しくナン・カレーを食べていたんですけど(残念!)

 それにしても,改めて見渡してみれば何という人・人・人の群れだろう。ざっと見積もると,東京ドーム4杯分程の人の山,つまり,20万人くらいが来場しているのではなかろうかと推測された。この異常とも言える集積ぶりの影で,はたして下水処理システムは正常に機能しているのだろうか,よからぬ犯罪の温床となるような死角的スポットは発生しないだろうか,などとつい余計な心配をしてしまうくらいだった。ごくごく健全な風貌の青少年たち,少々ヤンキーがかったニーチャン・ネーチャン,お定まりのアリキタリの家族連れ,誰もが振り向く美男・美女のカップル,孫に引きずられて嬉しそうなオバーチャン,日陰にしゃがみ込んで溜息ついているオジーサン,などなどに混じって,普段は決してお近づきになりたくないいかにもその筋の関係者とみられるコワモテの御仁だとか,お水の雰囲気丸出しの妖艶なオネーサマまで,あらゆる年代,あらゆる階層が,皆人同じ旗の下に集い,同じ歌に耳を傾け,同じ心情に収斂しながら,ミクロコスムとしての劇的空間を共有している。この蠢きは,例えば北朝鮮における国家的祭事と同類であって,当然,キム・ジョンナムだって未だに何処かをウロウロしているんだろう。(余計なお世話か)。

 なお,これは後になって知ったことだが,ディズニーランド・ディズニーシーに関してやはり同様な疑問を感じている人が世間には少なからずいるようで,インターネットの「何でも相談室」のようなところで,次のようなやりとりが交わされていた。


[質問] くだらない質問と思われるかもしれませんが、回答お願いします。東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの一日の来場者数、およそでもいいのでお願いします。

[回答] ディズニーシー創設当時のオリエンタルランド(親会社)の見込みは年間でランドが1500万、シーが1000万でした。2003年はあわせて約2500万だったそうですので、上記割合でよいと思います。1日あたりですと、あわせて7万人くらいで、そのうちディズニーランドが4万5千、シーが2万5千くらいでしょう。


 まさか,平日・休日を合わせた1日平均でランドが4.5万,シーが2.5万ということはないだろう。平日の入場者はそんなに少ないのか?土日祝日だけの統計はないのか?よくいわれる「主催者側発表のウソ」が逆目に現れているのか?一人勝ちの余裕からくる遠慮か?単なる帳簿操作か?謎は謎を呼ぶ。ま,ドーデモイイことなんですけどネ。

 ちなみに,土曜日だけで,父の万歩計カウンタは2万6千歩を超えていた。通常の3倍である。で,タカシはどうだったのだろう? 多分1万歩くらい,通常の3分の1程度ではなかったろうか(順番待ちのしすぎ!)。
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