ドブ川,もとい都市河川における「魚道」の意味

1997年12月12日 | 川について
 今朝の朝日新聞神奈川版に, 『オイカワ,ヨシノボリ,いずれはアユも....魚戻ったアイデア魚道』 という見出しの,いわゆるヨタ記事を見つけた。以下のコメントは本来ならば《川の構造について》の論考としてキッチリと書くべきテーマなのだが,どうも現在,体調不良につきあまり建設的な意見は出せずブツブツ文句しか言えそうもないので,ここでアブクと化してしまう。以下,新聞記事の転載とそれに関する私見を併記する。


◆新聞記事◆
 横浜市栄区を流れるイタチ川に横浜市が川幅いっぱいに「すり鉢状の魚道」を造ったところ,オイカワやヨシノボリといった魚が戻り始めた。

◇私見◇
 ・どこに魚が戻ったというのか。「すり鉢状魚道」の上流側の水域にか。
 ・魚道上流側水域には,その魚道を造る以前はそれらの魚類がほとんど生息していなかったのか。
 ・あるいは,ずーっと昔はいたけれども,最近では全然見られなくなった,でも魚道を付けたらさっそく戻ってきた,とでもいうのか(そんなことはない!イタチ川には少なくとも約10年前にはオイカワ,ヨシノボリを始めウグイ,ドジョウ,メダカ等々,合計13種の魚類が生息していたことをワタクシ自身が採捕確認している)。
 ・魚道を造ったことにより,「回遊魚」であるヨシノボリの河川遡上が容易になった(かも知れない)という言い方は理解できる。しかし,回遊魚でなく「純淡水魚」であるオイカワを同時に持ち出すのは,いかがなものか。対象水域に生息するオイカワにとって,魚道はどのような意味を持つのか,という説明がない。
 ・以上のことは,魚道の設置前及び設置後に行われた魚類生息実態調査(採捕調査)の結果明らかにされた事実なのか。あるいは単に地元住民などからの伝聞程度の情報なのか。記事ではその点が何も書かれていない。


◆新聞記事◆
 堰などの一部に魚道を残す例はあるものの,川幅全体を魚道化する試みは全国的にも珍しいという。

◇私見◇
 ・川幅いっぱいの魚道いわゆる“全面魚道”は,数10年以上も前から全国各地で施工されている(高知県仁淀川の八田堰が代表例)。
 ・それが,現段階において類似施工例があまり見られないのは,そもそも全面魚道という構造・形式が魚類の遡上にとってそれ程効果的でもなく,漁業関係者や河川管理者から「良い魚道」と認識されなかったせいではないのか(特に費用対効果の点ではそれが著しいと思われる)。
 ・全面魚道と通常の魚道(階段式魚道等)における魚類の利用状況を比較・検討した調査例も,少なくともワタクシは未見である。


◆新聞記事◆
 幅14m,奥行き13mの すり鉢を半分に割ったような形をした魚道は,魚が休めるように玉石も配置されている。

◇私見◇
 ・新聞の写真で見る限り,その「玉石」とやらはノッペリしたコンクリート斜面に等間隔に碁石状に並んでいるに過ぎない。あんまり遡上途中の魚が休めそうにもない形状である。
 ・長良川河口堰の“カジカ・カマキリ用魚道”を真似たようにも見える。しかし,イタチ川にカジカはいません! 遡上対象魚種として何を想定しているのか,明らかでない。 


◆新聞記事◆
(魚道が造られたイタチ川と柏尾川の)合流地点には,もともと県が造った水面から90cm,川底から2m20cmの段差があり,魚がのぼりにくかった。

◇私見◇
 ・魚道を造る以前の“段差”すなわち落差工のことだと思うが,これは魚類生息環境としては大変良好な淵(魚にとっての隠れ場・休み場)を形成していたと考えられる(水深が1.3mもある!) この淵が今回の工事によって潰されはしなかったか,心配だ。
 ・もし従来あった“段差”を魚(多分アユを第一に想定しているのであろう)が往来しやすいように改造するのであれば,とりあえずは落差工の一部に“土のう”でもいくつか積んでおけば十分だったろう。漁協のオジサンたちが昔からよくやっていた工夫である。見てくれは良くないけれど,魚にとってはそれで十分だ(費用もほとんどかからないし)。


◆新聞記事◆
県が管理する河川だが,市が事業費を負担することで国と県の補助も受け,昨年11月に魚道工事に着手し,今年6月に完成した。

◇私見◇
・何と,工事に半年以上もかかったのか! で,費用は総額お幾らで?(400~500万くらいか) 何?国税と県税も使われているですと? いやだぜ,ワタクシが絞り取られたなけなしの租税で,そんな所にヘンテコリンなオブジェを造られちゃ。
・結局のところ,行政サイドも一応のココロザシはあるのかも知れないが,その行使方法がちょっとズレていると言わざるを得ない。あまり先進的な“受け狙い”を優先しないように!
 
 
 少々シツコイ書き様であったかも知れない。申し訳ない。それにしても当該記事を書いた記者さん,プレス・リリースなど鵜呑みにしないで,もう少し御自身で批判的に考え,もっと勉強なさいね。
 

(追記97/12/23:横浜市下水道局のHome Page にこの魚道を紹介した記事を発見した。ナルホドネ,下水道局が手掛けたのか。さてさて入れ知恵したのはどこのセンセイだろう? しかしまぁ御丁寧に玉石の陰を遡上していると思しき魚のアップ写真まであったりして(だから何なの!) いずれにしろ,上記のワタクシの考えはいささかも揺るぎませんですが)
  
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