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今頃になって申し述べるのも少々気が引けるが,「キジバト観察日記」は結局書かれなかった。タカシによっても,或いは父によっても,それは書かれることがなかった。顛末は以下の如し。3月31日の午前,寒冷前線の通過に伴い当地は強い雨風に見舞われた。もともとこの付近一帯は“丹沢おろし”の強風がしばしば吹くことで知られる土地なのだが,その日もかなり強い北西の風が吹き荒れた。そしてその際,キジバトの巣が強風にあおられてガレージの屋根から落ちかけてしまい,それとともに抱卵していたキジバトも一時的に巣を放棄して何処かに避難してしまったようであった。幸いなことに,巣も卵も地上に落下することはなく屋根の縁でかろうじて踏み留まっていたので,強風がおさまった後,脚立に登って巣を元の位置に戻し,さらにガムテープで屋根にしっかりと固定しておいた。しかし,キジバト母さんは以後再びその巣に戻ってくることはなかった。結局,3/26~3/31のわずか6日間ほどの抱卵,儚い春の夜の夢であった。まぁ,キジバトにとっては単なる“自然の摂理”であったのかも知れないが,私共家族にとっては少々の失望と落胆と悲しみとがもたらされた。後味の悪い印象が残された。
その後,キジバトの巣と卵はどうなったかというと,巣の方は一部を残して「燃えるゴミ」として即刻破棄されてしまったが,卵の方は暫く我が家の玄関前に置かれて,まるで何かの記念碑であるかのように晴れ晴れしく飾られていた。ただし,それが何を意味しているかを問うた訪問者は,少なくともタカシのオトモダチのなかには,幸か不幸かいなかったけれどもね(ガックリ)。