元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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事業場を異にして労働する場合の労働時間の「通算」(労基法38①)の解釈と兼業促進<仕事の多様性から>

2017-04-01 17:38:33 | 社会保険労務士
 労基法38条1項の労働時間の「異事業通算」の考え方は、労働者保護からは正論であるが実務的には・・・

労働時間の原則的な制限は、一日8時間、1週40時間であるが、この時間の計算に当たって、異なる事業所で働いた場合には、どうするのかということについては、労基法38条1項に規定されている。

 「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とある。(労基法38条1項)

 ある労働者が一日にA事業所、B事業所でそれぞれ5時間ずつ働いた場合は、通算するとあるから 5時間+5時間=10時間となり、一日8時間を超える2時間については時間外労働となり、この時間は割増賃金となる。もともと労働基準法は、全体の解釈として事業所単位で考えるというのが一般的な考え方で、例えば時間外労働を行う際の36協定においても、事業場単位で締結することになっているが、この考え方を取り入れるとそれぞれ事業所で働いた労働時間の5時間で持って計算することになり、割増賃金は支払わなくてもいいことになり不都合なので、この場合は通算するということを示したものである。この場合、同一使用者を念頭においてのことであるとすると、だれもが納得するものであろう。

 ところが、通説・行政解釈は、当初から一貫して、同じ使用者の下での事業場を異にする場合のみならず、別の使用者の下での事業場を異にする場合も含まれるとしてきたところである。一人の労働者が複数の使用者の下では働くのであれば、通算しないということになると、過労防止の観点から問題となり、労働者保護の観点からはこのように解釈する方が確かにベターであろう。

 しかし、再度申し上げるが、労基法の一般的な考え方は、事業所単位で考えるところを、この労基法38条1項の規定に限っては、事業場が異なっても労働時間については通算するというのを規定したというのが、一般的な普通の解釈ではないかと考える。そう考えると、同一の使用者の下での通算規定であると解する方が素直な解釈である。菅野労働法では、このように「解してもよかったと思っている」としている。(*注)

 もちろん、法の趣旨をどこにおくかによって、すなわち労働者保護の立場をとるか、単に事業所単位の計算方法を示したものと取るかによって、この条文では使用者が異なるのか同じなのかが明確にされていない以上、どちらの解釈も成り立つものである。

 通説・行政解釈は、労働者保護の観点からのものであり、確かに理屈としては通る考え方であるが、実務上は実際に計算する場合には、困難が伴うことになる。時間外をさせた方の使用者が支払うことになるが、一日の後に働かせた使用者の方が一日8時間を超えることになり、後の使用者が割増賃金を支払うことになり、毎日の事であれば、後の使用者のみが負担することになり不公平になる。週40時間を超える労働の割増賃金になると、どちらが支払うのか(どちらの使用者の時に40時間を超えるのか)については、全く別々の使用者同士が密に連絡を取らないとちゃんとした割増料金を支払うことができない。また、もともとそういった労働者であれば、なかなか別のところでも働いていますとは言えない、言わないのが常であろうし、そうであれば、使用者同士の密なる連絡自体ができないことになる。通説・行政解釈は、労働者の保護という理論的解釈からするといいのだが、実務的には、理論道理にはうまく機能しないというのが現実であろう。この点について、2005年の労働契約法制研究会報告書では別使用者間の通算制について見直しの提言を行っているとされる。

 ここらをず~っと書いてきて、前にも書いたように思うが、今、仕事の多様化の論議が検討されており、この中には、兼業禁止の見直しや労働時間の上限問題があるが、兼業を認めることになれば、別々の使用者の場合に実質的に機能していない(と思われる)この労基法38条の規定をどうするか、この労基法38条1項の規定を立法的に解決する必要<同一の使用者と異なる使用者に分けて、異なる使用者の時にはどうするのかをはっきりさせる必要があるのではないか>があるように思う。

 *注1 さらに菅野氏は「行政解釈でも、使用者が、当該労働者の別使用者の事業場における労働を知らない場合には、労働者の通算による法違反は故意がないために不成立となる」としている。 

 参考 労働法 菅野和夫著 弘文堂
    労働法 荒木尚志著 有斐閣 

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