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井上道義のラスト・オペラ、『ラ・ボエーム』

2024-10-23 17:48:46 | 芸術をひとかけら
 「いやぁー、良かった。」
 別にこの12月で引退する指揮者井上道義の最後のオペラだから褒めているのではない。ただただ純粋に素晴らしい舞台だった。
 『ラ・ボエーム』は19世紀前半のパリが舞台。若い芸術家たちの貧しいながらも自由で気ままな生活。そんな生活の中での出会い、愛、やさしさとうそ、そして永遠の別れ。
 残念ながら、生でオペラを観るのは40年振りという僕に、歌や演奏について的確で気の利いたコメントはできない。ただ見終わって、心地良い高揚感とともに、オペラって良いな、また観たいなと思ったことは確かである。オペラが、音楽、演劇、舞踊、美術など、すべてを網羅した“総合芸術”と言われるのが少し分かった気がする。

 今回の『ラ・ボエーム』は2024年度の全国共同制作オペラであり、全国7都市で8公演行われる。なんと指揮者や主要キャスト以外(オーケストラ、合唱団、児童合唱団など)は各々地元の方である。私が観たのは10月19日熊本県立劇場の公演。因みに残すは10月26日の金沢、11月2日の川崎の2公演のみとなっている。
 全国共同制作オペラというのは、単独ではできない大掛かりで費用の掛かるオペラを、複数の劇場・コンサートホール等で連携して実現する、それも新たな演出で行うというプロジェクトである。我々庶民にとってはオペラを安く観ることができるメリットがある。海外オペラの引越し公演だとS席は6、7万円するし、国内のオペラでも3万円近くする。それが今回はS席で12,000円。それでも高いが、オペラは出演者・裏方など数百人規模の人間が関係することを思えば安いもの。とってもお得である。

 プロジェクトは2009年度から始まった。新演出ということで近年は野田秀樹や野村萬斎などオペラ畑ではない方が演出されているようだ。
 今回の演出はダンサー、振付師である森山開次。この舞台では演出、振付のほか美術と衣裳も担当される等多才な方である。この舞台の新演出として、画家役のマルチェッロの風貌や衣裳を藤田嗣治風にしたのは、ちょっと時代が違うものの、特段違和感はない。かえって親近感を覚える。児童合唱団の衣裳を、藤田の愛した猫のデザインにしたのはご愛敬。が、「芸術の息吹」という4人のダンサーを加えたのはどうだろう。踊りがメインで脇役というかBGMのような存在。まあ、原作に無いものを加えたから新演出なのだろうが・・・

 井上道義の指揮は読売日響などで何回か聴いたことがある。12月で指揮活動を引退されるためオペラはこの『ラ・ボエーム』が最後。指揮自体は12月30日の第54回サントリー音楽賞受賞記念コンサート(サントリーホール)が最後となる。これは聴きに行けないが、氏が愛する『ラ・ボエーム』の渾身の指揮を聴くことができて本当に幸せだった。マエストロ、長い間お疲れ様でした。ありがとう!


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