今日は、いよいよ俳句鑑賞の稿に入る。
實俳句
「墨絵その色彩との会話」
遺句鑑賞
画竜点睛。
墨絵の世界が広がっていく。
意味合いが少しばかり違うかもしれないけれど、實俳句には常に点睛が意図されている。
淡々と詠みつつ、一点の色彩を落とし込むのである。
そのバランスは絶妙である。実は絶妙過ぎて、読み手に伝わりきれない憾みがあることを實さんは知っていたのだと思う。それでも、意固地なまでに色彩を直接的に表現することを拒んでいる。どの俳句も、よほどのことが無い限り何色かを示さない。ケレン味のない俳句に仕上げているのだ。
さて、多くの方が實俳句を論ずるのだと思う。主宰は遺句集を俯瞰して、實俳句の全体像を解析した。
ぼくは墨絵との関わりで實俳句を論ずることとしたい。
サブタイトルに「墨絵その色彩との会話」とした意味がそこにある。
遺句集の構成は・・・。
Ⅰ 春 草萌ゆる
Ⅱ 夏 大けやき
Ⅲ 秋 いわし雲
Ⅳ 冬 冬銀河
Ⅴ 新年 日記買う
となっている。もちろん序文は由利主宰。跋に宮川一歩、中村三恵子両氏である。あとがきは中里春枝夫人。
堅牢な構成である。
とまれ、實俳句の群れは、読み進むうちに色、音、メロディー、そして匂いが感じられる。キャンバスに描かれた墨絵。そのどこかは分からないけれど、そっと忍び込ませた色を見つける旅に出る。
Ⅰ 春 草萌ゆる
木の姿ばかりほめられ糸桜 實
糸桜では、木の全体ばかり褒められるけれど、枝垂れている枝に着く花の淡いピンクの見事な色合い、いや風合が感じられる。
姿かたちはしなやかだけれど、実は一本筋が通っている。
そのことが大切なのだと・・・。
実は注目するところは、人が褒めそやさないところに注目してほしい、と言っている。
げんのしょうこ母の立居の重なれり 實
げんのしょうこは、小さな白い花の中に、紫の蕊が点睛のように散りばめられている。
そのアクセントは、母の所作にも似て物静かで美しいと言っている。
小さな花の命は、実は色彩で守られているのだと観察する。
木の声のふくらんで来る春の山 實
木の声は、春の日差しの中で膨らんで来ると言うのだ。
大気が温み、ものみな膨張してきてあわあわと大きくなってくる。
希望もまた同じであって、春の山は徐々に笑い顔になって来る。
山桜が咲き、ピンクを散らす。ブナは新録を重ねて緑を濃くしてくる。
様々な色が一斉に萌え上がる春なのである。
明日は、春の続きを鑑賞したい。
今日も、暑い日が続いている。
御同輩!
くれぐれもご自愛をされたい!
荒 野人