自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆ドイツと日本

2013年10月06日 | ⇒ランダム書評
  この本は一度読んでみたかった。川口マーン恵美著『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』(講談社文庫)。よく大戦後の日本とドイツは比較される。なぜか、ドイツが「ナチス」のことをよく反省し、EUではよく主導権をとり・・・などと。「それに比べ日本は」などと隣国から揶揄される。では、ドイツと周辺諸国との現実はどうなのか知りたいと思っていた。

  本著での「我々は原爆を持っているが、ドイツはマルクを持っている」と、ドイツを見つめるフランス人の考え方が圧巻だ。これは1989年、「ドイツ統一とユーロ導入の裏事情」という下りで出てくる。ドイツの経済は強く、ミッテラン大統領はドイツが統一を望むならとユーロ導入を強力に勧めた。他国が望まなかったドイツ統一の代償として、ドイツはマルクを手放したという裏情報である。これは腑に落ちる。壮絶な政治的駆け引きがあったのだろう。でもドイツはその後、ユーロ導入で域内の関税はなくなり、為替変動のリスクもなく、輸出大国ドイツの地位を確立する。が、ギリシア財政危機が表面化し、ユーロ圏が一蓮托生となるとのドイツにも焦りが生じる。ドイツもユーロ圏を抜けたがっているのだろうと想像に難くない。それでも、ドイツは近隣から憎まれる。ドイツがギリシアに対して財政規律と緊縮財政を求めれば、求めるほど、ドイツのメルケル首相に「ナチの制服を着せたカリカルチュアがギリシアの雑誌に出回る」ことになる。ドイツも辛い。

  ヨーロッパを一つにしよという高い理想があっただけに、今や仲たがいの原因となっているとは皮肉だ。まして、EUの経済状態が確実に悪化しているのでなおさらだ。ところで、著者は着想はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とEUを比較して、日本に警鐘を鳴らしている。それは、TPPでは共通の通貨は持たないが、人と金、モノ、サービスの自由な流通を共通理念としている。これはEUと原則的に同じで、アメリカが主導するTPPはそういうことだったのかと気づかされる。

  TPPでは不都合なところがあれば、今後の交渉で解決すればよいというが日本はドイツ並みに外交交渉が上手かとなるといささか疑問だ。2020年のオリンピック招致ではなんとかうまくやり遂げたが、国際舞台の交渉の場ではどうだろう。メルケル首相のような手腕を安倍首相に期待できるのだろうか。筆者はいう、「日本語は非関税障壁なので、英語を公用語に入れろなどと言われかねない。日本人はそれでもいいのだろうか」と。

  EUの中のドイツと、TPPの中の日本は同じ役回りだとの下りは身につまされる。「ドイツから搾り取れるだけ取ってやれ」と思っている国はEUで多い。表現は露骨だが、「日本からいけだけるものはドンドンといただく」くらに思っている加盟国もいるのではないか、いや国とというもの大抵そうだと思った方がよいのかもしれない。その意味で、ドイツと日本は同じ運命、「5勝5敗」のイーブンなのだろうか。

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