自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆マヤと能登

2013年10月12日 | ⇒キャンパス見聞
 世界遺産「コパンのマヤ遺跡」(ホンジュラス)などマヤ文明遺跡の遺跡管理担当者8人が今月から金沢大学に集まり、文化遺産の保存や活用の方策を考える研修を行っている。研修に参加しているのは、中米のグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルからのマヤ文明遺跡を有する国の行政官(世界遺産担当、観光担当)、技術スタッフ、運営管理責任者、調査保存修復担当者ら。研修参加者が遺跡を適切に管理し、それを活用した地域住民の生活向上につながる観光や地域開発計画の立案ができるようにと日本の事例などを参考に研修を積んでいる。12日はスタディツアーとして、能登町の縄文期の国指定史跡である真脇遺跡や中能登町の雨の宮古墳群に一行を案内した。

 マヤ文明遺跡は、メキシコのユカタン半島から中米の地域で栄えた都市文明。4-9世紀に全盛期を迎えたが、その後衰退した。世界遺産を含めた貴重な文化財が数多く残っているものの、保存管理への財政支援や、観光振興に結びつく活用などは十分ではないとされる。このため、遺跡を文化資源として生かし、地域開発につなげる道を探るため、金沢大学とJICA北陸が研修を企画した。研修を指導しているのは金沢大学国際文化資源学研究センターの中村誠一教授(マヤ考古学)。

 午前、真脇遺跡では町立真脇遺跡縄文館で土器や動物の骨などを見学した。新出直典・能登町教育員会学芸員から展示概要の説明を受けた。研修参加者の興味を引いたのは地層断面の展示品。樹脂で固めて自然の状態を保っており、「展示技術を学びたい」と盛んに写真を撮っていた。発掘現場に復元された遺構「環状木柱列」では、「太陽が昇る位地とどのような関係があるのか」「この木柱列は祭祀ではどのように使われていたのか」などの太陽暦とかかわる質問と祭祀について参加者から飛んだ。また、展示だけではなく、この遺構で住民たちがコンサートを開いているとの説明には、地域が参加した遺跡現場の活用事例としてメモを取っていた。

 研修参加者の一人、世界遺産ティカル国立公園(グアテマラ)の研究者のゴメス・オズワルド氏は「マヤ文明遺跡は規模が大きく、多様性に富んでいるが、修復や保存が追いついていない。実際、真脇遺跡のように海に近くにある遺跡で、巻貝のようなカタチをした博物館を建設中だが、資金不足で建設は中断したままだ」「真脇遺跡はとてもコンパクトに設計されていて、車イスの身障者でも発掘現場に行かなくてもおおよその内容がつかむことができる。この展示手法は見習うものが多い」と感想を話した。

 午後、参加者は輪島市町野町金蔵の仏教寺院「正願寺」を訪れ、松原洋住職(インド哲学者)から、地域の人々の仏教に対する帰依について話を聞いた。カトリック教徒の参加者からは礼拝について質問などがあった。その後、金箔に装飾された御堂や、木目を活かした廊下や板戸、欄間、調度品などを見学しながら、日本人の美意識や自然観についても説明を受けた。

 夕方訪れた中能登町の国指定史跡「雨の宮古墳群」。眉丈山(標高188m)の山頂を中心に、4世紀の中頃から5世紀の初めにかけて造られた36基の古墳群について、能登王墓の館管理人の山森仁左衛門氏から説明を受けた。北陸地方で最大級の前方後方墳(1号墳)では、副葬品の神獣鏡(しんじゅうきょう)などが出土した現場を見学。この地域は地溝帯であり、水上交通・輸送の一大ルートでもあったことから、5世紀には中央の王権(大和)と結びついた能登半島の中心地であったことが考察されると説明を受けた。

⇒12日(土)夜・金沢の天気  くもり
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