自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★輪島・千枚田で稲刈り 被災から耕作にこぎつけた120枚の物語

2024年09月04日 | ⇒ドキュメント回廊

  台風が去り、能登半島ではようやく稲刈りのシーズンが到来した。先月24日に輪島市の白米千枚田を訪れると、ボランティアで耕作を行っている「千枚田愛耕会」のメンバーがいて、31日から稲刈りを行う打ち合わせをしていた。元日の能登半島地震で千枚田に多数のひび割れが入ったことから田んぼの修復作業を重ね、5月に120枚の田植えにこぎつけた。展望台のから千枚田を見渡すと、120枚の田は黄色く色づき、海風が通るとかすかながらサラサラと音を立て稲穂がそよいでいた=写真、8月24日撮影=。

  その千枚田で稲刈りが始まったのはきのう(3日)だった。台風10号の影響で31日の稲刈りを延期、今月1日に台風から熱帯低気圧になったものの、能登地方では2日にかけて雨が降っため、稲刈りが遅れていた。地元メディアによると、作業を行ったのは棚田のオーナー制度で田んぼを借りて耕している会員や愛耕会のメンバーら20人。稲刈り機は田んぼに入らないので、鎌で一株ずつ刈り取り、ワラで結んではざ掛けした。稲は「能登ひかり」という早生品種。

  「能登ひかり」にはちょっとしたストーリーがある。一昔前まで能登の気候に合う品種ということで生産されていたが、モチモチ感のあるコシヒカリに押されて生産する農家は少なくなっていた。それを見直したのが、京都や大阪といった関西の寿司屋だった。「ベタベタとした粘りがない分、握りやすく、食べたときにも口中でパラッとバラけるので、寿司によいのだという」(講談社新書『日本一おいしい米の秘密』)。さらに、このバラける食感がスープ料理にも合うということで、金沢市内のレストランなでども使われるようになった。

  4㌶の斜面に小さな棚田が連なる白米千枚田は2001年に文化庁の「国指定文化財名勝」に指定され、2011年に国連世界食糧農業機関(FAO)から認定された世界農業遺産「能登の里山里海」のシンボル的な存在だ。こうした評価の重荷を背負いながら愛耕会メンバーが中心となって、「1000分の120枚」の耕作にこぎつけた。メンバーの大半も被災し、いまも金沢市に2次避難している人もいると聞く。そして来年も耕作枚数を増やそうと、いまも田んぼの修復作業を重ねている。苦労がしのばれる。稲刈りは8日まで続く。

⇒4日(水)夜・金沢の天気     はれ

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