自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★加賀の酔い-上

2018年01月05日 | ⇒ドキュメント回廊
   正月三が日は自宅で過ごし、今週末は石川県の加賀温泉めぐりを楽しんでいる。きょう(5日)は小松市の粟津温泉に来ている。泊まった旅館は「法師」。開湯はちょうど1300年前の養老2年(718年)という。一度は泊まってみたかった温泉旅館だった。

       開湯1300年、一度は泊まってみたかった旅館

    旅館の従業員に法師(ほうし)という名前の由来を尋ねると、「それはですね」とちょっと身を乗り出すようにして説明してくれた。加賀地方で霊峰と呼ばれる白山(はくさん)は泰澄大師が荒行を積んだことでも知られる。その泰澄にインスピレーションが働いて粟津の地で村人といっしょに温泉を掘り当てた。そこで、弟子の一人の雅亮法師(がりょうほうし)に命じて湯守りをさせた。それが旅館の始まり、とか。一時期、もっとも古い温泉旅館としてギネスブックにも登録されたこともあるそうだ。

   期待通りだった。部屋の中の内湯は源泉かけ流しで、くつろげる。ちょっと口に含んでみた。ナトリウム硫酸塩泉塩化物泉で無色透明で無臭、味は少ししょっぱいがクセがない。浴感がすこぶるよい。1300年、客が絶えなかった湯治場の歴史を感じさせる。

   庭を歩くとまるで古刹の庭のようだ。苔むしたグランドカバーは見事。シイの巨木、雪吊りがほどこされたアカマツなど庭の老樹は何かを語りかけてくるようだ。築山があり、「心」をかたどった池がある。鶴亀の巨大な石もある。春の桜、夏の清流、秋の紅葉、そして冬景色と庭の四季が凝縮されているようだ。先の従業員氏に再度質問をする。「作庭はどなた」と。「三代将軍・家光公の茶道師範をつとめられました小堀遠州が粟津へお越しの際に法師に滞在され、その折にご指南を受けたと語り継がれております」。大名茶人、小堀遠州がかかわったと伝えられる庭か。2度うなった。

   いっしょに泊まりにきた友人たち3人がそろい、酒宴が始まった。近況を語り合い、議論も交わした。ゆでカニの料理が運ばれてきた。大振りのズワイガニだ。しかし、カニの足の部分しかない。カニには目がないので、部屋にあいさつに来られた若女将に「甲羅の部分はないのですか」とつい言ってしまった。すると、「それはカニの特別料理になりまして、予約のときご注文くだされば対応できましたのに」とさりげなくかわされた。確かにカニは特別料理だ。「なんて食い意地の張った無粋な質問をしてしまったのだろう」と自虐の念に陥ってしまった。

   それにしても、新年から楽しい酒だった。われわれを酔わせた酒は、全国新酒鑑評会で27回の金賞の受賞歴を有する「現代の名工」、85歳にして杜氏に復帰した農口尚彦氏の酒だった。あす6日、農口氏を訪ねることにしている。法師から車で18分ほどだ。湯治と杜氏は近い、ダジャレを言いながら眠りに入った。

⇒5日(金)夜・小松の天気    くもり
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆「2018」を読む-下

2018年01月03日 | ⇒トレンド探査
   「ことしも自虐ネタできたか」、くすくすと笑いながら読んでしまった。3日付の新聞朝刊を楽しみというほどではないが、少し意識して開いた。期待を裏切らない全面広告だった。「謹んで新年のお詫びを申し上げます。」を最上段に掲げ、以下「『早慶近』じゃなくなったことに関するお詫び」「2018年問題に関するお詫び」「近大マグロに関するお詫び」「インスタ映え広告に関するお詫び」「ド派手な入学式に関するお詫び」などと「お詫び」記事のオンパレード。最下段で「今年も盛大にやらかすんで、先にお詫びしときます。近畿大学」と結んでいる。きょうは同大学の願書受付の開始日でもある。

     自虐ネタの全面広告、「近大」が問うていること

    近畿大学の新年広告について大学の職場で話題になったのは昨年1月のこと。「これは、自虐ネタですよ」。先輩教授が3日付の全国紙の広告を見て笑った。『早慶近』の特大文字とマグロの頭の写真が掲載された全面カラーの広告だった。読者が普通に読めば、「早稲田、慶応、そして近大」。これまでは「早慶上智」だったが、最近は上智にとって代わって近大が早稲田、慶応と並んだ、と言いたいのだろうと解釈した。ところが最後に下段の右隅で「早慶近」の意味を披露している。「みなさまに早々に慶びが近づきますように」。この広告の練り方は深い、と印象に残ったものだ。

    ところが、今年は昨年のネタをさらにこね回し、「『早慶近』じゃなくなったことに関するお詫び」と題して、「早慶近中東立法明上」をキャッチコピ-にしている。「昨年1月3日に掲載した『早慶近』というキャッチコピーの新聞広告によって、『100年早い』とか言われて世間をお騒がせし、っていうか一部炎上したことをお詫び申し上げます」と言い訳しつつ、しっかりと「早慶近」と先頭グループを強調している。「ちなみにこの並び、語呂よくしてみただけで、深い意味はありません。念のため」とあくまでもランキングではなく語呂合わせと言い訳しているが、意図は見え見えだ。ちなみに、近畿大学のランキングはイギリスの教育専門誌「Times Higher Education」が出してる「THE世界大学ランキング」で1000位に入った私立総合大学のことを指す。

    確かに、近畿大学の経営戦略は突出している。少子化で18歳人口が減少する中、近畿大学は2005年に5万人だった入試の志願者総数を2017年には14万人に伸ばし、早稲田大学や明治大学を抜いて4年連続で全国1位となっている。昨年4月には入学定員を920人も増やしている。また、32年間かけてクロマグロの完全養殖に成功し、「近大マグロ」はすでにブロンド化されて寿司屋でもメニューになっている。水産資源の持続可能な保全という意味では国際的にもっと評価されていい。経営面では脂が乗りに乗っている。

    2030年以降の18歳人口は100万人を切る。私学ランキングの旧式なパラダイムは「早慶上智」「関関同立」だったが、それだけはでもう大学としの経営は存続が難しくなることは目に見えている。自虐ネタの全面広告ながら、近畿大学はそのことを問うているに違いない。耳を澄ませば高笑いが聞こえてくるようだ。「早慶上智のみなさん、関関同立のみなさん、あと10年もすればあんたがたの経営はどうなりますやろか。気つけなはれ。オーッホッホッ」

⇒3日(水)午前・金沢の天気   くもりときどきゆき
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★「2018」を読む-中

2018年01月02日 | ⇒トレンド探査
    前回(1日付)の続き。昨年12月7日に女性宮司が実弟に刺殺された東京・富岡八幡宮が気になっていた。縁起でもない事件で、元旦の初詣客は激減だろうと。ネットニュースではそうでもないらしい。1日午前0時の直前には参拝客が次々と訪れ、本殿まで行列ができたようだ。事件と神様は別なのかもしれない。

     世相を映す賀状、「戌笑い」で乗り切る

    元日に多くの年賀状をいただいた。旧知の方からや最近懇意にさせていただいている方まで、賀状をいただくとうれしいものだ。礼を失することがないように初めて賀状をいただいた方にはなるべく早く出すように心がけている。それにしても、賀状は世相を反映するものだと感じている。

    「小池にハマって さぁ大変! 化かされた後始末も大変です」と賀状を送ってくれたのは東京に住む出版社の友人。世論調査(12月、産経・FNN合同調査)では、小池東京都知事の支持率が19.0%で過去最低を記録。衆院解散前の9月には66.4%に達していた高支持率はもはや崩れ落ちている。小池氏が国政よりも都知事の仕事を優先すべきなのに、先の総選挙で希望の党を立ち上げ、「排除」発言で墓穴を掘ってしまった。都民とすれば信頼できなくなったのだろう。「夢もチボーもない」(©東京ぽん太)年になりそうです!? と結んでいる。切れ味の鋭いユーモア。

    新聞社の関係者から。「新聞販売、厳しさが増していますが、終わりが迫っているのではなく、未来が始まってると強く思います」と。ネットの時代に既存の新聞・テレビの経営は厳しい。しかし、新聞というメディアはしぶとい、といつも思っている。だてに百年の歴史を背負ってはいない。関東大震災、先の大戦をくぐり抜いたメディアだ。どのような「未来」を描いているのか、今度お会いしたときに尋ねてみたい。

    能登半島は少子高齢化が急激に進んでいる。能登の方から。「百歳を越えた母と 古希に向かう妻 古希を疾うに過ぎた私 計二五〇歳に 近づきつつある老々家族となりました こうなれば三百歳超えをを狙おうかな・・・」。振り向く老犬のイラストが描かれ微笑ましい。気が若い。老を払う。

    昨年還暦の年に心筋梗塞で手術を経験したという知人から。「・・・カテーテル手術の最中に、モニター越しに健気に頑張って拍動する我が心臓君の動きを見て、・・・よくぞ60年も黙って、いい加減な私のために働いてくれたかと。この思いの向きは心配をかけた家族や友人、部下の皆にも同じでした。新しい年は感謝の気持ちを忘れずに、大切に過ごして参りたいと思います」。周囲への感謝の想いが詰まった賀状につい目が潤む。

    漆芸の人間国宝の方からいただた賀状。「『髹漆國技也』 正木直彦先生の揮毫した扁額が輪島塗資料館に掲げられてをります。漆芸に係はる一人一人が肝に銘じて大切にしなければいけない言葉だと思う」。髹漆(きゅうしつ)は漆を素地に塗ること。漆器は「japan」。古来から漆芸はこの国の生きる技だ。しかし、漆器業界は売上高が激減していて離職も相次ぐという。原点を見つめ精進を重ねることで、次なる可能性を見出したいとの決意にも読める。ひたすら漆の仕事に向き合う尊い姿が目に浮かぶ。

    メールで新年の言葉も。学生から「去年は能登ツアーや馬緤のキリコ祭りなど、大変お世話になりました。・・・著書『実装的ブログ論』、拝読させていただきました。雑草と戦うドンキホーテの話が面白かったです」。拙書をさっそく購読。こちらこそ感謝。

    投資家のホームページを読むと今年は「戌(いぬ)笑い」の年に当たり、株価が上昇するようだ。それにあやかって今年は笑いで乗り切りたいものだ。

⇒2日(火)朝・金沢の天気    ゆき
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆「2018」を読む-上

2018年01月01日 | ⇒トレンド探査
  昨年のニュースは暗いものばかりが目立った。神奈川県座間市の27歳の男が住むアパートで女性8人と男性1人の9人の遺体が見つかった事件(10月31日)など。そしてダメ押しは大阪府寝屋川市の自宅で33歳の娘を自宅プレハブ小屋に17年余りも監禁して死亡させ、遺体を遺棄していた事件(12月23日)だ。なぜこうも殺人事件といった暗いニュースが世の中に蔓延するようになったのか、明るいニュースが見当たらないのか。

     暗いニュースばかり、癒されるニュースはどこにある

    警察庁が平成28年7月にまとめた「犯罪情勢」によると、過去10年の殺人事件の認知件数は平成17年が1338件で以降が減少傾向にあり、同27年は戦後最少の933件だった。件数は戦後最少に減っているのに、マスメディア(新聞やテレビなど)やインターネットでは殺人事件ばかりが目立つ。  

   その原因はニュースの価値基準が最近大きく変化しているからではないかと感じている。ネットでニュースを見るようになり、情報の量が多くなったものの、その情報の価値基準は「事件・事故」が優先されているのではないかと考える。マスメディアでは地域で起きた怨恨による殺人事件などはローカルニュースとして扱われ、よほど社会性がない限り全国ニュースとして取り上げられることはなかった。ところが、ネットだとマスメディアのホームページに上がっているローカルニュースもすぐに拡散してしまう。事件・事故は拡散のスピードが速い。つまり、ネット時代になり、マスメディアのニュースの価値基準は通用しなくなったのだ。

   ところが、心が癒されるニュースというのは地域に住む人たちが情報共有するものである。たとえば、昨日(12月31日)の地方紙を読むと、石川県羽咋市で日中朱鷺保護協会名誉会長の村本義雄さん92歳のもとに中国や佐渡からトキのカレンダーが届いたという記事が掲載されている。この記事を読んで、トキの保護活動を一途に続けてきた人柄が見えて微笑ましいと感じる地域の人は多いと思う。でも、この記事はネットニュースで拡散することはないだろう。長年トキ保護に努力している村本さんという人物はある意味で「地域のアイコン」であり、記事を読んでの微笑ましさは「地域の共有共感」でもある。

   先に述べたように、事件・事故というのはこうした「地域の共有共感」とはまったく無関係に、殺人事件であれば、ローカル、全国を問わずネットを通じて全国に流される。結果として、スマホなどと通して毎日のように多くの殺人事件を目にすることになる。しかし、そのニュースは人々の脳裏からすぐに消えていく。暗いニュースというのは心理的に忘れたいものだ。

   逆に言えば、目にしたくもない殺人事件など暗く過剰な情報をどうしたら避けることができるのだろうか。ネットも新聞もテレビも見なければいい、ただそれだけなのだが、やはり心が癒されるニュースには触れたい。ネット時代で新聞の部数減など経営危機が叫ばれているが、ひょっとして新聞やローカルテレビ局が生き残る可能性はコンテンツ戦略にあるのではないだろうか。

⇒1日(月)朝・金沢の天気     くもり
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする